感染症(SARS・鳥インフルエンザ等)関連情報

第1回重症急性呼吸器症候群(SARS)に関する講演会の概要

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感染症

感染症というものは、大体のものは抗生剤を使っていれば治るとか、これで死ぬようなことはないだろうといったようなことで、医療関係者も一般の方も段々注意が薄らいできました。つい10年ぐらい前まではそのような風潮が強かったようです。

確かに、身の回りでかつてのように伝染病で人々が亡くなることは随分少なくなって、その分、安心して暮らせるようになったことは確かですが、実は、世界中では結構いろいろな新しい病気が出てきております。

これは今回の話のきっかけにもなるのですけれども、1997年に香港でトリ型のインフルエンザが流行したことがあります。インフルエンザというのは、毎年多くの患者さんが出て、中には肺炎で亡くなられたり、子どもであれば急性脳症で亡くなるということもあります。インフルエンザについては、新型のウィルスが出てくるのではないかということは前々からささやかれていました。それが1997年に、ヒトのインフルエンザではなくて、本来ヒトにうつることはないトリのインフルエンザが、偶然ヒトにやってきて、18名の発症者とそのうち6名の方が亡くなっているという一大事件が香港でありました。たった18名の中で6名かと思われるかもしれませんけれども、世界中にこういう新しいインフルエンザが広がるかもしれないということで、香港では、このトリ型インフルエンザの感染源になったであろうニワトリその他の鳥類を150万羽処分したということがありました。

その後、ヒトにはこのトリ型インフルエンザは出ていなかったのですけれども、今年に入って、このトリ型インフルエンザがヒトから出たということが今回の一件の一つのキーワードになります。

また1998年には、ブタからヒトに新しいウィルスがやってきました。ニパウィルスというものです。これはマレーシアの人々に急性脳炎を起こしました。これもブタからヒトへ直接ウィルスが来たことがしばらくして判明し、マレーシアでは感染源と考えられたブタを100万頭処分し、その後はヒトへの感染はなくなりました。

このような新しい感染症、あるいは、忘れていたけれども、油断しているとまたもう一回出てくるような感染症に対して、「新興・再興感染症(Emerging and Re-emerging Infectious Diseases)」という言葉が使われるようになりました。新しい病気としては、今のニパウィルス、あるいは、アフリカにおけるエボラ出血熱などがよく知られています。我々の身の回りでは確かに少なくなっているけれども、コレラ、デング熱、麻疹、流行性髄膜炎、赤痢、黄熱などは、再興感染症の代表的なものです。感染症という病気に対しては、我々は常に油断をしてはいけないという警鐘はずっと鳴らされております。

また、狂牛病として知られているウシ海綿状脳症からくるCJDであるとか人為的にまかれる炭疽菌であるとか、我々の日常生活では起こり得なかった感染症も注意を要するものとして注目を浴びております。

感染症に再び警鐘が鳴らされている原因として幾つかある中で、特に、人と物が物凄い速さで、しかも大量に地球を移動しているということがあげられます。

もう一つは、先ほどの例で申し上げましたように、本当は人間には関係がない病原体であっても、動物から人のほうにやってくる可能性があります。これは地球上の環境変化、人間社会生活の変化に伴うものです。またそういうものが一旦出てくると、これは情報社会のいい面もあれば悪い面もあるわけで、あっという間にその情報が広がってきて、対策が早くとれるかわりに、直接のかかわりのない人々が不安に思ってしまうといったような社会的現象も起ります。

そこで、教科書みたいな話ですが、「感染症」と言っているものはどういうものかということをちょっとお話しします。

昔は「伝染病」と言っていましたが、今は、伝染病ほぼイコール感染症としていいかと思います。これは、ある微生物が体の中に侵入して増えたということを、感染するあるいは定着すると言いますけれども、これは病気ではない。つまり、病気ではない人の体内に微生物が入ってくることはいくらでもあるわけです。その微生物が体内で増殖して、組織が壊れて何らかの症状が出てくると「感染症」ということになります。ですから、全く正常な人からも、ある微生物がみつかることはいくらでもあるけれども、それが悪さをしている場合もあるし、全く悪さをしていないこともあるわけです。

感染症を起こす微生物としていろいろなものがあります。ひっくるめて「病原菌」という言葉がいろいろな場では使われますが、私どもは、微生物は細菌だけではなくて、ウィルス、真菌、寄生虫・原虫類、いろいろなものがあって、それぞれの特徴があります。

では、どのように違うのかという細かい話はさておき、大きさの違いで言いますと、ウィルスというものは極めて小さいもので、ナノmの単位で、もちろん肉眼で見ることはできません。普通の、例えば大学とか高校の生物の実験で使うような顕微鏡でも見ることはできません。電子顕微鏡という特殊なものを使わないと見えません。ウィルスは、遺伝子の塊のようなもので、極めて微細なものであるとお考えいただければと思います。

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SARSといわれるようになった肺炎

今回は肺炎という病気が話題になっていますが、肺炎というのは臓器の病気です。いろいろな原因があります。代表的なものは病原菌微生物による肺炎ですけれども、同じような肺炎という症状をとりながらも、中には、細菌であったり、ウィルスであったり、真菌であったり、原虫であったり、いろいろな微生物があるので、肺炎という病気をとってみた場合には、何が原因による肺炎かを見ていかないとその原因がわかりません。

また、肺炎というのは、必ずしも病原体による肺炎だけではなくて、例えば間違って何かを飲み込んでしまったような嚥下(えんげ)性の肺炎もあります。あるいは、化学物質でも肺炎を起こします。

今回、SARSといわれるようになった肺炎がどのように展開されてきたかということですけれども、実は、昨年11月に、中国で非定型性肺炎、これはレントゲンで見て特徴的な像が映るものですが、病原体その他はわからないけれども、肺炎の患者さんが中国の広東省で多く見られたという報告がまずありました。2002年の11月から2003年の2月までに約300名の患者さんが出て5名が亡くなっているということがわかっています。

中国側は、微生物の一つであるクラミジアが原因ではないかということを言っていました。もう一つ事件が起きたのは、2月19日に、福建省から戻ってきた香港在住の3人の親子が、冒頭に申し上げましたトリ型インフルエンザ、つまり1997年以来ヒトに出てこなかった、新型のH5N1型と言われるトリ型インフルエンザに感染したとの報告がありました。これは新型インフルエンザが出てくるのではないかということで、感染症をやっている者にとっては非常に重要な問題をはらんだニュースでした。

そうこうしているときに、3月5日、ベトナムのハノイで、医療機関を中心にして、レントゲンの結果、同じような肺炎が多発した例がありました。それから、3月12日になると、香港でまた同じようなレントゲンの像の肺炎が多数出てきました。

その次に少しわかってきたことは、ハノイの病院で肺炎が流行したときに、このきっかけになったのは、上海から香港、香港からハノイへと旅行した男性が入院した病院が、ハノイでの院内感染のきっかけになったということです。この男性は香港に搬送されて、香港で亡くなっています。しかし、香港では、この男性が亡くなったのとは別の病院で、やはり同じような肺炎の多発が見られたということがあり、どうもその最初の主は中国本土からの旅行者ではないかということがわかってきました。

そして、今度はシンガポールでも患者さんが見つかったり、あるいは、香港から来たカナダとドイツで同一の症状をあらわしている患者さんが見つかったということで、WHOは最初はアジアで注意すべきであると言っていたものが、ヨーロッパでも、アジアから帰ってきた患者さんでも同じ症状の方が出たということで、グローバルアラートであると注意を促しました。地球上で気をつけなければいけない、各国共通の問題として捉えるべきであるという意味です。そして、WHOはこの肺炎を重症急性呼吸器症候群(SARS)と命名しました。さらに、先ほどの中国の肺炎も香港、ベトナムと同一のSARSであろうとなってきました。

これは香港からのレポートが中心になっていますけれども、患者さんの多くは25歳から70歳までの成人ですが、これは病院を中心にして起きたということではないかと言われています。重症化しやすい患者さんは、例えば慢性の心疾患であるとか、糖尿病であるとか、何らかの基礎疾患を持っている方がより重症化しやすいということも言われております。
 しかし、私自身もちょっと不思議に思っていることですが、子どもの患者さんが非常に少ない。例えばこれだけの広がりを見せる病気でありながら、小学校での集団発生とか、幼稚園で見つかったとかいうことがあまりないのが、現在の広がり方に一つの疑問を呈するところであります。

潜伏期間は通常2日から1週間以内くらい。ちょっと長く見積もっても10日。例外的なものを入れるとか14日とかもありますが、一応1週間以内が平均的なところで、長くて10日ぐらいですので、10日間を過ぎて何の異常もない人、あるいは、接触の可能性があって、10日以上を過ぎてそのほかの症状が出た人については、あまり心配はしなくてもいいだろうということが考えられるわけです。

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SARS症状の始まりの特徴

SARS症状の始まりの特徴として、最初から高い熱が出ます。そのほか、悪寒、戦慄、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛などという症状がありますが、これは最近流行したインフルエンザと全く同じですから、もしインフルエンザの流行中にこの病気が流行したとすると、これは極めて区別がしにくいことになります。つまり、インフルエンザのような症状で始まって、それが急激に呼吸が苦しくなっていくというのが典型的な症状です。

 そのほか、体に発疹が出るとか、最初からけいれん、意識障害、下痢、そういった消化器の症状がないわけではないのですけれども、これが中心の症状になるわけではない。やはり中心になるのは呼吸器系の症状で、息が苦しい、乾いた咳がでる。痰が絡むようなゼロゼロするような、つまり喘息のような咳とは違うということも一つの特徴になります。

熱が出てから2日から3日ぐらいしてから乾いた咳、呼吸困難が始まる。そうやって発症した患者さんの10~20%は、気管内に管を入れて人工的に呼吸を手伝う、そういったものを装着することがあります。つまり、かなり重症の呼吸不全が10~20%患者さんに起こるということが言われております。

 現在のところ、届けられた疑いあるいは可能性例、そういった患者さんを集めて、その中での亡くなった患者さんの数からすると、致死率は3~4%ではないかと言われております。

 SARSが重いか軽いかというご質問をよくいただくのですけれども、海外から入ってくる重症の病気としては、我が国にはないエボラ出血熱、あるいは、天然痘などの病気は、50%~70%の致死率があると言われています。ただし、これに感染する人は極めて限られています。

もうちょっとポピュラーな病気でいえば、子どもの麻疹。そんなもので死ぬわけはないではないかという声も大きいのですけれども、未だに 0.1~ 0.2%の死亡率がありますから、乱暴な言い方をすれば、麻疹の10倍ぐらいの危なさがあることになります。もちろん麻疹は予防注射があります。ついでですけれども、ですから予防注射はふだんから重要です。やっておかないと、そういう病気でもかなりの死亡率を示すということです。強調して申し上げておきます。
一方、約90%の方は1週間目ぐらいで回復しており、退院していく方もどんどん増えていますので、エボラ出血熱のように「死のウィルスがやってくる」という表現は極めて間違っております。感染すると、3~4%亡くなるということはありますが、致死的な病気ではないので、その点は医療関係者も含めて冷静に対処する必要があります。

肺炎の原因にはいろいろな病原体があるというお話を申し上げましたが、SARSについては、今までに知られているウィルス、細菌、クラミジアといったものまで含めて陰性で、原因がわかりませんでした。最初はパラミクソウィルスが原因ではないかという発表がありました。パラミクソウィルスというのは、その中にはいろいろな分類があります。麻疹、子どもの気管支炎を起こすようなRSウィルスもの、おたふくかぜウィルス、イヌのジステンパー、ヘンドラ、ニパなどの新しいウィルスがパラミクソウィルスの仲間です。ここ1~2年で見つかった新しいヒトメタニューモウィルスであろうという説もあります。

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コロナウィルス

ここ何日かで急速に浮上してきたものとしてコロナウィルス説があります。コロナウィルスもウィルスの一つの分類で、その中にはいろいろな種類がありますが、ヒトにとってのコロナウィルスは、感染症をやっている者、ウィルスをやっている者にとっては、「なんだ、そんなつまらないウィルスか」と言いたいぐらいの、ヒトの鼻かぜを起こすウィルスで、ごくごく当たり前のウィルスです。

そのほかには、ブタ、マウス、ニワトリ、七面鳥などに特有のコロナウイルスがあり、それぞれの動物に胃腸炎を起こしたり、気管支炎を起こしたりします。SARSに関係するコロナウィルスは、どうも今までに知られていたコロナウィルスではなくて、ウマ、ブタ、トリから来たウィルスのように、動物から新しくヒトに来たのか、あるいは、ヒトの体の中で変異をしたのか、その辺はまだ不明なところです。

こういった可能性がある原因微生物がわかってくると、今度は、その微生物は健康な人からもとれてくるのか、あるいは、そのウィルスが付いてからヒトの症状がどのくらい出てくるのか、というように病気の理解が進みます。あるいは、ちょっと時間はかかるかもしれないけれども、それをもって新薬の開発、ワクチンの開発に結びついてきます。微生物が出たからといって直ちにそういうものに結びつくわけではありませんが、ヒントが増えてくることは、その後の発展に結びついてきます。

コロナウィルスはスライドにあるように、小さなもので 0.1~ 0.3μmです。

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感染ルート

最初、この病気も病院の中で広がりを見せているので、極めて近いところで接触した人だけの感染ではないかと言われ、今でもそれが中心ではないかと言われています。しかし、もう一つ問題になったのは、香港のあるホテルに泊まった人が最初の発症者で、同じフロアに泊まっていた人の中から、カナダへ行った人、アイルランドへ行った人、アメリカへ行った人、その後転々とした人の間で、同じような症状が出た、ということが問題になりました。そんなに密接な接触ではない場合でも感染があり得るのではないかということが考えられたわけです。

もう一つ問題になったのは、高層アパートで感染者が広がりました。これも少し離れた距離でもうつる可能性があるかもしれないということを示しています。

感染症の感染経路としては、まず接触感染があります。飛沫感染というのは、唾、咳、くしゃみ等に包まれて微生物が飛んでいくのは1m前後ぐらいで感染がおこるものです。空気感染というのは、例えば結核とか麻疹がそうですが、これはかなりの距離をおいても感染します。もし私が結核だとすると、この部屋の中の方々は一斉に結核の検診をやらないと危ない。飛沫感染と空気感染にはそのくらいの違いがあります。

この病気のもう一つの感染ルートとして考えておかなければいけないのが環境からの感染です。ネズミ説、ゴキブリ説、下水道水説、食べ物説などもあるわけですが、それらは今のところ十分に検証されているところではありません。可能性としてもそんなに高いものではないけれども、あるかどうかについて調査中です。
 それから、これが感染する力には、個人差あるいは病気の時期によって違いがあるようです。これもまだよくわからないことですが、この病気に感染した人がすべて同じような感染力の強さを持ってどんどん広げているというよりは、ある条件、これがわからないのですけれども、ある条件の人が感染力が強くて、飛び散りやすいということも言われております。どうもすべての人が、等しくウィルスを広くまき散らすという状況ではないようです。

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