海外邦人事件簿|Vol.12 退避勧告の意味

『紛争の続くA国。外務省では、現在、A国全土に対して「退避勧告」を発出している。現地に滞在していた企業駐在員等の日本人滞在者は既に出国し、残る日本人は若干の報道関係者と大使館員のみとなっていた。治安情勢はさらに悪化し、外務省は現地大使館の一時閉鎖を決定し、大使館員は近隣国Bの日本大使館に移動した。

数日後、一人の日本人の若者が「A国の状況を自分の目で確かめてきたい」とB国の日本大使館にA国への入国方法を尋ねにきた。大使館員は入国を思い止まるよう促したが、若者はその説得も聞き入れず、遂に入国してしまった。

さらに、その数日後、A国の情勢はさらに混沌とし、まさに市街に砲弾が飛び交う状況。日本人若者は自分の身に迫る危険をやっと実感した。そして自分の行動が無謀だったと悟り、出国を決意した。しかし出国手段はすでにない。出国の支援を期待できる日本大使館員も当地にはもういない・・・・・・・』

これはあくまでもフィクションですが、非常によく似たケースも過去に生じています。

こういう場合、外務省としての対応は非常に難しいものがあります。海外に渡航・滞在する日本人の生命・身体を守ることが外務省の重要な任務であることは論を待たず、前述のような極めて対応が困難なケースであっても、できる限りの支援はしてきました。

自分の身に迫る危険を実感した

しかしながら、退避勧告が出ていて、十分に危険が予想されるような地域に自らの意志で赴いた方がトラブルに遭遇された際、当然の如く日本大使館にサポートを期待することの是非は、本人はもちろん、それを支援する大使館員双方の生命に関わるだけに、今後大いに考える必要がありそうです。

外務省が出している「退避勧告」は、その名の通りあくまでも退避、或いは渡航の自粛をすすめるもので法的な強制力はありませんが、実際に高度な危険が存在することはもちろん、例に挙げたように、危険回避の手段が著しく制限されている地域に対し、邦人保護の最終的な手段として発出するものです。

現在、「退避勧告」を出している国・地域は12か所。今でも、これらの地域への渡航について、一般の方から問い合わせを頂くことも少なくありません。今一度、「退避勧告」の意味を考えて見ませんか。

邦人保護の最終的な手段として発出するものです

(2004年3月22日掲載)

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