全世界的にアル・カーイダをはじめとするイスラム過激派の活動は活発。10月18日に放送されたUBLの声明では日本を攻撃対象として言及しており注意が必要。
昨年10月12日のバリ島爆弾テロ事件後も、本年8月5日にインドネシアの首都ジャカルタにおける、JWマリオットホテル爆発事件等、テロ事件が頻発。
ジュマ・イスラミーヤ(JI)は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ等にネットワークを持つイスラム過激派であり、特にインドネシアで大規模な爆弾テロを引き起こしている。最近、幹部メンバーの逮捕が相次ぐも、依然として多数の構成員がおり注意が必要。
アブ・サヤフ・グループ(ASG)は、フィリピン南部及びマレーシア・サバ州で活動するイスラム過激派であり、爆弾テロの他、誘拐を引き起こしている。特に誘拐については外国人を標的とした計画があるとも言われており注意が必要。
モロ・イスラム解放戦線(MILF)は、フィリピン南部で活動する反政府イスラム過激派であり、多数の爆弾テロを引き起こしている。フィリピン政府とは現在停戦状態にあり、最近は大きな動きなし。
新人民軍(NPA)は、フィリピン全土の山間部で活動する共産主義勢力であり、爆弾テロや革命税の要求と称する企業脅迫を引き起こしてきている。戦闘行為という面では、ここ数ヶ月は小康状態ながら、組織力等に大きな変化はないと見られる。
米国同時多発テロにおける死亡者数は3,000人弱程度であったが、イラクにおける開戦後及び停戦後の(米国側)死亡者数は300人強。この点を比較すると、テロの人的被害がいかに大きいかがわかる。グローバル化の進行と同時に、テロのグローバル化、広域化も進行している。
リスクマネジメントといわれる事柄、例えば、SARS、IT、社員の不正等の中でもテロのリスクは上位。ある米国企業は緊急時のバックアップ体制を準備していたため、米国同時多発テロ事件においても迅速に営業を再開した。そのように緊急時のバックアップ体制は重要であるが、これを準備している日本企業は少ない。
本社及び現地支社に安全責任者を任命し、両者が定期的に情報交換、手順の確認を行う。
出張者と現地の安全責任者は緊密に連絡をとりあう必要がある。
誘拐、脅迫等の被害を受けた場合には、委員会を社内に設置する。
部門別にセキュリティアナウンスを行うことやセキュリティセミナーを開催すること等が有効。
テロの脅威に屈して進出を断念したり、撤退する企業と、テロ対策をきちんと講じることにより当該国に進出したり、撤退せずに残留する企業を比較すれば、後者の厳しい環境に耐えられる企業が有利。危機管理が経営上の利益をもたらし、競争力を向上させる。
中東のイスラム過激派と東南アジアのインドネシア、フィリピン等のイスラム過激派はアフガニスタンでの同窓生のようなもの。アフガニスタンが旧ソ連の侵攻を受け、共産主義化した際に、インドネシア、フィリピン等から多くのイスラム教徒がアフガニスタンに向かった。その結果、アフガニスタンから旧ソ連を追い出すことに成功したが、軍事的な能力を有し、かつイスラム過激派の影響を強く受けた彼らが世界各地に帰国して活動を行っている。したがって、東南アジアもイスラム過激派の本流ということができる。
米、英、豪等の政府関連施設等は狙われやすいので、近寄らないように注意すべきであるし、これらの国の政府施設と同じ建物内にオフィスを構えている企業は、移転を検討すべきである。 テロリストは容易に攻撃できる場所を狙う。他の場所よりも少しでも攻撃が難しい場所は、標的から外す傾向があり、この少しの差が重要。
1996年から2001年までの海外での邦人死亡理由の調査結果を見ると、病気、交通事故などが圧倒的に多数であり、テロによる死亡者数は全体の1.26%に過ぎない。テロ対策が要らないというわけではないが、過剰に反応する必要はない。米国同時多発テロ事件以後、日本企業は5~6ヶ月海外への渡航自粛を行ったが、欧米の企業は48時間後には、通常業務に戻っていた。これはバランス感覚の違いから来るもの。
テロ対策以外にも、企業は病気になる従業員を減らすために、年に1回の健康診断を年に2回に増やすべきであり、交通事故の発生に対処できるように常に2台の乗用車で移動するようにする等、やるべきことは多い。中国国内でSARSに感染した人は800人であったが、交通事故の死亡者数は年に10万人である。バランス感覚が重要である
一般的な治安情勢に関する情報と特定の国の特定の脅威情報の両方を知っておく必要あり。
進出先の国の治安に関する基本的情報(例えば大統領選挙(例えばフィリピン、来年4月、インドネシア、来年7月)の前に選挙資金稼ぎのための誘拐、恐喝が増加、イスラムのラマダン期間中にテロ事件が発生する可能性が高いなど)を把握する必要あり。
中国瀋陽における誘拐事件では、犯人はホテルのフロントで盗み見た被害者の自宅の電話番号に身代金を要求したことからも分かるように、安全対策における情報管理が重要。
テロ事件発生に関連し、有事対応計画を作成すべき。ビジネスの継続性維持のためにはバックアップの機能を持たせる必要あり。
危機管理には、企業のトップが、陣頭指揮し、人員、費用、時間を割り振るという認識を持っていなければならない。
危機に遭遇すると普段なら当然できることができなくなることがある。複数の人間が関与し、指針を作成しておく必要がある。
海外での安全に関して大使館・領事館のできることは限りがあるので、基本は自己責任である。勿論外務省としても、可能な限りのことをするつもりであり、情報収集・分析・提供と相手国政府との折衝のほか、テロのような万が一のことが起こった際に必要となる支援については、責任を持ってその役割を果たす。
基本的な内容から盛り込み、対策手順を提示する。
具体的な対策は企業の業種、対象によって異なる。駐在員であれば、身辺警備、事務所の出入管理、自宅の安全等が重要。出張者に対しては、行き先となる国の情報を提供し、予め緊急時の対応を確認し、現地との連絡体制を確保することが重要
危機管理コンサルタントにマニュアルの作成を委託しただけで安心しているケースが多いが、知識と実際の行動は異なるのでマニュアルを見なくても行動できるよう、緊急時を想定したシナリオエクササイズを実施し、関係者が良く議論することが有益。その過程でマニュアルに記載されている内容に問題点がないか確認できる。また、その段階で、危機管理コンサルタント等の専門家のコメントを求めれば極めて有益。
マニュアルは「ソフト」で、連絡体制や予算等は「ハード」とみなすべきもの。
バリ島爆弾テロ事件の際にバリ島の米系のホテルでは、事件後迅速に警備強化や宿泊客への情報提供が行われるなど対応がきちんとなされていた。マニュアルがきちんとあってこそ可能な対応であった。
情報収集において、大使館や総領事館といった公式の情報ライン以外に、企業独自の情報ラインを持っていることが重要。
自分の安全は自分で守るという自己責任の原則が基本。外務省が提供している情報としては、メーリングリストによるテロ等に関する安全情報や、海外安全ホームページを通じた情報があるので、参考にしていただきたい。
バリ島爆弾テロ事件の際に、現地のデンパサール駐在官事務所の人員では、限界があったと考えられる。今後も世界の様々な場所でテロ事件が発生することやテロに係る情報収集の重要性が高まっていることから、小国の大使館や総領事館でも、事件対応の頻度や管轄国の情報源の重要性を考えて、相応の人員を配置することを考慮して欲しい。
政府ができることは、外国政府に対して申入れをしたり、圧力をかけることと、いざという時の邦人救出。警察が信用できない国がアジア、中南米を中心に存在する。然るべきレベルに申し入れできるのは大使館しかない。アジアの国々の中には、役人が腐敗し、贈賄を要求される場合もあるが、米国の大使館は、米国企業の相談役になっている。今後は、上記のようなビジネスリスクにも対応してもらえるようお願いしたい。
緊急時に政府は微妙な対応を行うことが可能。相手国の外交、警察、軍の関係者との折衝が可能。たとえ日本政府が外交関係を持っていない場合にも、友好国に支援を要請できる。
フィリピンのNPAやコロンビアのFARC等が革命税を要求することがある。放火や暗殺を仄めかし脅迫する場合が多く、一度払ってしまうと、警察に届ける機会を逸してしまう。方策としては、金を払わずに、対話を続ける努力をし、時間を稼ぐことにより、諦めさせることがある。地域のコミュニティに対する支援を申し出ることも良い方法。色々な対策を組み合わせるべきである。
脅迫を受けた場合には、早い段階で在外公館に連絡をしていただくことが重要である。
アル・カーイダの活動の中で、身代金誘拐の例は承知しておらず、これまでのところ、誘拐の脅威が特に高まったとはいえない。
2002年のカラチにおけるウォール・ストリート・ジャーナル記者誘拐殺害事件にアル・カーイダが関与していたという説もある。政治目的の誘拐を行う可能性は排除されない。
企業の危機管理において、安全を100%保障することは不可能であるが、その中で、どこまで努力をするのかが重要。
企業は、人、金等で簡単に倒産することはないが、信用がなくなればすぐに倒産する。そのため、信用をどのように守っていくかが重要。海外における危機管理において、現地の人々に対する配慮がなされないのであれば、信用を失いかねないことになる。
UBLの声明に見られるように、日本の外交政策がテロの標的になり得る時代になっている。外交の選択が重要になってきている。
ジュリアーニ・ニューヨーク市長の発言で「市長にとって、一般的なルールで自分の市に関する詳細な知識を置き換えることはできない。しかし、困難に立ち向かうためのリーダーシップの原則はある。」というものが雑誌ニューズウィークに紹介されていた。危機管理に一般理論はないが、いくつかの想定をして、訓練をしておくことで、想定外の状況に対しても、よりよく対応することができるようになる。