このコーナーでは、主に海外で事件・事故に巻き込まれて実際に被害に遭われた旅行者の話を題材にしていますが、犯罪に巻き込まれそうになったものの、何とか窮地を脱した旅行者も大勢いらっしゃることでしょう。
実際に被害に遭ってしまった旅行者、危うく難を逃れた旅行者、何か違いがあるのでしょうか。もちろん、運、不運もあるでしょうが、旅行者の気構えや、とっさの状況判断が旅行者自身の命運を左右することもあるようです。
『空港のトイレで、スーツケースを横に置いて小用をたしていた男性Aさん。いきなり男がスーツケースを持ち去ろうとしたが、Aさんはスーツケースに掛けた片腕を放さず、周りにいた人たちに「ヘルプ! ヘルプ!」と大声で助けを求めたところ、男はあきらめて立ち去った。』 一人で旅行中、空港や駅のトイレで小用をたすときなど携行している荷物の置き場所に困った経験をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。チェーン式のロックでどこかに固定するなどの方法が賢明ですが、ときには大声で叫んで周りに助けを求め、犯人を怯ませることも有効でしょう。
『出張の旅先で列車に乗っていた男性Bさん。駅に停車中、男が堂々とBさんのスーツケースを持ち去ろうとした。気づいたBさんは男を追って、タラップを降りた付近で男とスーツケースの奪い合いになった。駅員が近くにいたので「ポリース!」と叫んだところ、男は慌てて逃げた。』
やはり、大声による犯人への威嚇が効を奏した一例です。それにしてもBさんは幸運でした。Bさんは無事スーツケースを取り戻し、自分のコンパートメントに戻りましたが、パスポート、航空券、財布やクレジットカードを入れたブリーフケースを席に置きっぱなしにして自分が男を追いかけていたことに気がついて、「もし、あの男がおとりで、自分がスーツケースを追っている間に、別の仲間がブリーフケースを持ち去っていたら。。。」と、後になってゾッとしたそうです。
『夜の駅前を歩いていた男性Cさん。突然、7~8人の子どもたちがCさんに向かって何かを話しかけながら手を引っ張って路地へ連れて行こうとした。少し離れた建物の陰から怪しげな男がその様子を眺めているのを見つけたCさん。何かおかしいと感じたので「ヘルプ! ポリース!!」と叫んだら、子どもたちは蜘蛛の子を散らすように退散した。』
このようなケースでは、自分に何が起こっているのかとっさに理解できず、薄暗い路地に連れ込まれて強盗などの被害に遭う旅行者もいます。Cさんのとっさの判断がCさん自身を救ったと言えるでしょう。また、相手が子どもだからといって、追い払おうとして手を出さないことも大切です。手を出すと物陰で見張っていた大人が出てきて、子どもに暴力を振るわれたと因縁をつけ、逆に加害者に仕立て上げられる可能性もあります。
これらは、犯罪に遭った場所が空港や駅など比較的警備体制が整っており、周りにたくさん人がいる場所だったので、大声を出すことにより犯人を怯ませ、難を逃れることができたケースですが、ときには、恥も外聞もなく大声を上げることが犯罪に遭った際に有効に作用することもあります。
しかし逆に、例えば人気のない場所などで銃やナイフなどの凶器を持った強盗に遭遇した場合は、大声を上げると犯人を刺激して危害を加えられるおそれがありますので慎まなければなりません。
犯罪に巻き込まれたそのとき、どう行動するかを瞬時に判断することは容易ではありません。しかし、あらかじめその土地で多く発生している犯罪の傾向を知っておくことは、あなた自身の身を守る大きな助けになるでしょう。
(2006年2月6日掲載)