ベネズエラ
テロ・誘拐情勢
更新日 2025年02月05日
1 概況
(1)2024年、ベネズエラでは、無差別テロやイスラム過激派を含む国際テロ組織による活動は確認されていません。また、特に注目すべきテロ事件は発生していません。
(2)「コロンビア革命軍(FARC)」が、2017年にコロンビア政府と和平合意したことにより、その勢力が縮小傾向にありましたが、2019年8月にFARC元幹部が同合意を破棄し、政府に対する武装闘争の再開を宣言し、ベネズエラ側国境地帯での活動も確認されています。また、コロンビアの「民族解放軍(ELN)」やベネズエラの過激派組織の活動も確認されています。なお、2022年11月、ELNはコロンビア政府との和平交渉を再開し、2023年8月には、6か月間の停戦が合意されましたが、2024年9月ベネズエラの国境付近アラウカ州の陸軍基地をゲリラが襲撃し、交渉は一時中断しました。しかし、同年11月にカラカスにおいて和平交渉は再開されました。
(3)近年、都市部において政府系武装組織(コレクティーボ)が暴力的
行動を継続して行っています。コレクティーボとは、元々は1980年代に主に貧困地区において、福祉活動や治安維持を担うため結成された自警団組織ですが、その後、麻薬取引、誘拐、人身売買等により暴力組織として変貌したものや、2000年以降に新たに結成されたもの等があります。コレクティーボが支配している地域では、治安機関も介入できなくなるほど勢力を拡大し、殺人、強盗、誘拐事件が頻発するほか、麻薬取引等も公然と行われていました。2024年の大統領選挙キャン
ペーン中においても、野党側の集会やデモの妨害や破壊工作が行われました。大統領選挙後も野党側の抗議デモや集会に現れ、妨害行為を繰り返しました。大統領就任式開催にあたって、政権側はこうした武装集団を大統領直轄の傭兵軍団として認定し、その身辺警護を担当させるなどしました。
他方で、メルセナリオ(スペイン語で「傭兵」の意)と呼ばれる反政府側の武装組織があります。大統領選挙前後では、与党側の街宣活動に対する妨害活動を行い、多数の逮捕者を出しました。コレクティーボはバイクで集団行動を取ることが多いですが、メルセナリオは目立たない服装で人ごみに紛れて行動を起こすと言われています。いずれの集団も一目で判別することは困難ですので、そのような集団が現れるような場所(貧困街やデモ・集会)には近寄らないことが大切です。
(4)また、コレクティーボと同様に治安機関も介入できない支配地域を有する組織として、都市部においてはバンダと呼ばれる犯罪集団が存在しています。バンダはコレクティーボとは異なり、政治的思想はなく、純然たる犯罪集団として、強盗、殺人、恐喝、誘拐等の犯罪行為を行う集団です。バンダが支配する地域では、歩哨所を設けて警察官や軍人が立ち入らないようにしており、しばしば銃撃戦が起こり、流れ弾で死傷者がでています。2021年7月、カラカス首都区(リベルタドール市)の南西部において、3日間に及ぶ治安当局との銃撃戦が発生し、多数の死傷者が出ています。2024年中は大きな銃撃戦は発生しませんでしたが、バンダが活動する地域には近づかないでください。
(5)同国の治安当局によれば、2024年の当国内における身代金目的誘拐事件の発生件数は12件であり、昨年と同水準で減少傾向を維持していますが、当国では、犯人に身代金を支払うことが違法であることや、現役の警察官が誘拐に関与している場合があることから、治安当局に届け出がなされない件数が相当数あると目されています。
2.各組織の活動状況又は各地域の治安情勢
(1)コロンビア・ゲリラ等の活動
ア ベネズエラは、コロンビア及びブラジルとの間で、それぞれと2,000km以上に及ぶ国境線を有しており、コロンビア国境地域(スリア州、タチラ州、アプレ州等)及びブラジル国境地域(アマソナス州、ボリバル州等)は、コロンビア・ゲリラのFARC、ELN等が活動しており、これらの収入源として、麻薬売買、誘拐ビジネス等の非合法活動が行われています。
イ FARCは、2016年、コロンビア政府と和平協定を締結しましたが、2019年にはイバン・ マルケスらのグループが和平合意を破棄し武装闘争を再開しました。これら武装闘争継続派の幹部が当国で保護されているとの見方もあり、実際に、2021年5月にFARCの分派である「セグンダ・マルケタリア」のヘスス・サントリッチが、また、2022年5月に「第10戦線」のヘンティル・ドゥアルテがいずれもベネズエラ国内での戦闘で殺害されたと見られています。
ウ 無差別テロ等の重大事件の発生は大幅に減少しているものの、コロンビア・ゲリラ等によると思われる麻薬密売及び身代金目的誘拐事件は依然として発生しています。また、これらの組織の方針に従わない者や解雇された者達によるグループ、これらの組織の犯行を模倣した一般犯罪グループや不良警察官等による誘拐事件も発生しています。
エ なお、コロンビア政府は「全面和平(Paz Total)」としてゲリラ等との交渉を進めており、2022年11月にはベネズエラ政府の協力の下でELNとの和平交渉が再開され、2023年8月、カラカスにおいて第4回和平交渉が行われ、6か月間の停戦合意に至りました。2024年9月にはベネズエラとの国境付近アラウカ州の陸軍基地をゲリラが襲撃し、交渉は一時中断されました。しかし、同年11月にカラカスにおいて和平交渉が再開されました。
(2)コレクティーボ、犯罪組織等の動向
ア コレクティーボは、野党系の議員等の集会・デモ等が行われる際に、会場にライフルや拳銃を持ってバイクに乗った集団として現れ、参加している反政府支持者に対して暴行等に及んだりすることがあるほか、時には、拳銃等で発砲を行う等、極めて危険な暴力行為を繰り返しています。2019年2月のグアイド国会議長(当時)ら野党勢力による全国的な人道支援物資搬入時には、国境付近の各地で、コレクティーボによる銃撃や襲撃が報告されたほか、野党の集会に対する襲撃も繰り返されました。2020年1月の国会召集時には、国会議事堂周辺に数百名のコレクティーボが集結し、野党側国会議員の議事堂への入場を阻止する行動に出ました。2021年においても、11月に実施された地方選挙の投票所に並んでいた反政府支持者が武装したコレクティーボに襲撃され、1人が死亡、2人が負傷する事件が発生しています。2022年以降、政治的抗議デモが減少し、コレクティーボの活動は
沈静化しましたが、2024年の大統領選挙キャンペーン中においても、野党側の集会やデモの妨害や破壊工作が行われました。大統領選挙後も野党側の抗議デモや集会に現れ、妨害行為を繰り返しています。
イ バンダは、支配地域内外で強盗、殺人、誘拐、脅迫等の犯罪行為を行う以外にも、支配地域の拡張や当局の排除のため、度々警察当局と衝突しており、その都度、近隣住民や通行中の市民に流れ弾で死傷者がでています。また、2023年には国内の主要なバンダが治安当局の摘発を受けましたが、そのリーダー格のほとんどは、未だに未検挙であり、その勢力が衰える様子は見られません。バンダの支配地域のあるカラカス首都区(リベルタドール市)西部のラ・ベガ地区、コタ905地区、セメンテリオ地区、エル・バジェ地区や、東部のペタレ地区等には、不用意に近づかないでください。
(3)過激派組織「国家解放愛国軍(FPLN : Fuerza Patriótica de Liberación Nacional)」
ベネズエラにおいて、「ボリバル解放戦線(FBL)」という名称でも知られているFPLNは、ゲリラ組織に最も近い性質を持った組織で、1992年頃からその活動が表面化し始めました。コロンビアの国境地帯を中心に活動しており、コロンビアのFARCやELN、また、これらと結びついたベネズエラの誘拐組織及び麻薬密売組織と手を組み、主に、牧場主や農場主に対する脅迫・強請を行っていたほか組織的な誘拐事件、麻薬密売等に関与して、その活動資金を得ていると見られています。2014年には、アプレ州でロドリゲス・トーレス内務司法大臣(当時)の弟(牧場主)の誘拐を企図した疑いが持たれています。なお、同組織が山中に
アジトを形成し活動しているスリア州、タチラ州、アプレ州、アマソナス州では各種店舗や病院等に架電して金銭を要求し、これに応じない場合、爆発物を投げ込む事件やそこから派生する誘拐事件も発生しました。同組織の代表だったエクトル・オルランド・サンブラノが2020年に国会議員に再選されており、同組織の活動は縮小していると見られています。
(4)その他犯罪集団
上記のみならず、ベネズエラ国内各地で様々な犯罪集団が、人身取引、誘拐、麻薬取引、強盗などの犯罪行為を行っており、最近ではブラジル、コロンビア、カリブ諸国を始めとする近隣諸国を中心に中南米地域全体にも活動範囲を広げています。被害者が要求に応じない場合や衝突が発生した場合は、爆発物を使った襲撃を行う等の暴力的行為を伴うため極めて危険です。
金を始めとする豊かな鉱床が広がるボリバル州の「アルコ・ミネロ」鉱業地帯ではコロンビア・ゲリラや「トレン・デ・アラグア」、「トレン・デ・グジャナ」等の犯罪組織による不法採掘や縄張り争いによる衝突も確認されています。また、政府による国軍を動員しての掃討作戦も行われているため、最新情報に注意し、同地域には近づかないでください。
3 誘拐事件の発生状況
ベネズエラでは、身代金目的の誘拐や「短時間誘拐」が多発しており、特に、カラカス首都圏において顕著に発生しています。
同国治安当局によると、2024年の誘拐発生件数は12件であり、2023年と同水準で減少傾向を維持していますが、ベネズエラでは、警察官が、誘拐犯と共謀している場合が多いほか、身代金を支払うことは違法となるため、被害者の親族等は、被害者の生命を優先させ、被害届を出さないのが実情です。昨今の手口は、誘拐して、自宅や銀行ATMへ連れて行き、金銭や所持金を奪った後、即解放する「短時間誘拐」が大半を占めています。
誘拐を敢行するのは、貧民街をアジトにする完全に組織化された誘拐犯グループです。以前は、誘拐犯罪の被害者の多くは、コロンビアとの国境付近で牧場・農場を経営する経営者とその家族、また、カラカス首都圏周辺の実業家及びその家族、外国からの移住者等、裕福な階層でした。しかし、ここ数年、都心部の商人、学生、専門職職員、公務員等あらゆる層に拡大し、また、外国人も被害に遭っており、十分な注意が必要です。
4 日本人・日本権益に対する脅威
現在のところ、ベネズエラにおいて、テロ・誘拐による日本人の被害は確認されていません。他方、テロによる日本人の被害は、シリアやアフガニスタンといった渡航中止勧告や退避勧告が発出されている国・地域に限りません。テロは、日本人が数多く渡航する欧米やアジアを始めとする世界中で発生しており、これまでもチュニジア、ベルギー、バングラデシュ、スリランカ等においてテロによる日本人の被害が確認されています。
近年は、世界的傾向として、軍基地や政府関連施設だけでなく、警備や監視が手薄で不特定多数が集まる場所を標的としたテロが頻発しています。特に、観光施設周辺、イベント会場、レストラン、ホテル、ショッピングモール、公共交通機関、宗教関連施設等は、テロの標的となりやすく、常に注意が必要です。
また、外国人を標的とした誘拐のリスクも排除されず、注意が必要です。
テロ・誘拐はどこでも起こり得ること、日本人も標的となり得ることを十分に認識し、テロ・誘拐に巻き込まれることがないよう、「たびレジ」、海外安全ホームページ、報道等により最新の治安情報の入手に努め、状況に応じて適切かつ十分な安全対策を講じるよう心掛けてください。