コロンビア
テロ・誘拐情勢
更新日 2024年05月15日
1 概況
(1)コロンビアにおける反政府武装組織として最大勢力であった「コロンビア革命軍(FARC)」は、2016年11月、コロンビア政府と和平合意に署名し、現在和平プロセスが進展しています。しかし、和平合意に従わない一部の元FARC幹部やFARC分派が、依然としてジャングルや隣国との国境付近を中心に治安当局を標的としたテロ、誘拐等の犯罪を行っています。2022年3月には、ボゴタ市内のCAI(日本の交番に似た警察施設)に対する爆破テロを敢行し、付近にいた児童2名が死亡したほか、警察官1名を含む30名以上が負傷、近隣家屋約50戸に物的被害が発生しました。また、FARCと政府の和平合意後に国内最大勢力となった「国民解放軍(ELN)」や「クラン・デル・ゴルフォ」等のゲリラ、武装犯罪組織、多数の麻薬犯罪組織も、誘拐、テロ、殺人、恐喝、麻薬の密造・密輸・密売等の犯罪を行っています。
テロの発生件数はかつてより大きく減少したものの、2017年に113件の最少記録以降、2019年は235件、2020年は422件、2021年は280件、2022年は1,229件と大幅に増加し、2023年は11月末現在で180件と増減を繰り返しています。2022年8月に就任したペトロ大統領は、国内全てのゲリラや武装犯罪組織を対象とした和平対話プロセスである「全面和平(PAZ TOTAL)」を呼びかけ、2023年12月末現在、ELNをはじめとする22の組織が和平交渉・対話に応じる姿勢を見せ、うちELN及びFARC分派の「中央参謀本部(EMC)」が政府との交渉を行っています。
(2)コロンビア国内では「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」等のイスラム過激派等の組織的な活動は確認されていませんが、これまでにISILとの関連が疑われるキューバ人が逮捕され、イラク人が強制送還されており、過激思想の影響が疑われる個人の存在が確認されていることから、イスラム過激派等の動向についても注意が必要です。
(3)誘拐事件も以前に比べると大幅に減少していますが、2022年は194件、2023年は316件(11月末現在)発生しています。増加の理由は特定できませんが、ELNやその他の犯罪組織が政治的又は身代金目的で誘拐を行っているほか、都市部では偽装タクシーを使用した短時間誘拐の手口もあり、十分な注意が必要です。
2 各組織の活動状況または各地域の治安情勢
(1)「国民解放軍(ELN)」
ペトロ大統領の呼びかけにより政府との和平交渉を再開しましたが、停戦合意は必ずしも守られておらず、依然としてテロ、誘拐、恐喝、治安当局への攻撃、石油パイプラインの爆破、麻薬の密造・密売等の犯罪を行っています。FARCと政府の和平成立により、2016年以降FARCが撤退した地域において勢力を拡大したと言われ、活動が活発な地域は、アラウカ県、ノルテ・デ・サンタンデール県カタトゥンボ地域、チョコ県等です。都市部でのテロ実行能力を有するとされ、2017年から2019年にかけてボゴタ市やバランキージャ市の警察施設やショッピングセンターでテロを実行したほか、2022年1月にはカリ市で警察暴動鎮圧機動隊の乗車した車両を爆発させる、2023年11月にはコロンビアの著名なサッカー選手の両親を誘拐するなどしており、和平交渉の進展状況も含め、今後の動向には注意が必要です。
(2)「コロンビア革命軍(FARC)」分派
2016年の和平合意に従わない一部のFARC分派は、引き続きジャングルを拠点にテロ、誘拐、恐喝、治安当局を狙った攻撃、麻薬の密造・密売等の犯罪を行っています。現在、活動が活発な地域はノルテ・デ・サンタンデール県、アラウカ県、カウカ県、ナリーニョ県です。2018年には、エクアドル国境付近でエクアドル人ジャーナリストら5名を誘拐した上で殺害しています。また、2022年3月には、ボゴタ市内のCAIに対する爆破テロを敢行し、児童2名が死亡したほか、警察官1名を含む30名以上が負傷しました。
FARC分派は複数のグループで構成されており、複数のグループが和平交渉に応じる姿勢を見せていますが、他方でナリーニョ県やカウカ県で仲間内での抗争が発生しており、農村部の住民が避難を余儀なくされるなどの事態となっています。
(3)武装犯罪組織(GAO:Grupo Armado Organizado)
政府は、ELN、FARC分派の他に「クラン・デル・ゴルフォ」等の組織を治安上の脅威としてGAOに指定し、組織壊滅のための対策に取り組んでいます。これらの組織も、誘拐、恐喝、治安当局への攻撃、麻薬の密造・密売、鉱物資源の違法採掘等の犯罪収益で活動しています。活動が活発なのはノルテ・デ・サンタンデール県カタトゥンボ地域、アンティオキア県バホ・カウカ地域、ボリーバル県南部、ナリーニョ県、アンティオキア県とチョコ県にまたがるウラバ地域等です。いくつかのこれらの組織も和平交渉に応じる姿勢を見せおり、うち「クラン・デル・ゴルフォ」は2022年末に、政府との双方向停戦に合意していましたが、2023年6月に決裂しています。
3 誘拐事件の発生状況
2022年中の誘拐件数は194件、20223年は11月末現在で316件でした。増加の理由は特定できませんが、ELNなどが政府との和平交渉で優位に立つために引き続き誘拐行為を継続しているとも考えられているほか、資金源として地元の農業主、商業主等を標的に営利目的誘拐を実行しているとみられます。これらの犯行は事前調査により犯行計画を練った上で実行され、被害者の身近な親族、会社の同僚、警備員等が犯罪組織に内通している場合が多いと言われます。日常生活において行動をパターン化しない、身近な第三者に不審な動きがないか注意する等の心構えが必要です。
誘拐が非常に多かった2000年代前半の誘拐は、長期にわたり身柄を拘束し、都市間を転々としながら身代金を要求する手口が多かったものの、現在では都市部で犯罪組織がタクシーを偽装して乗客・家族から身代金を要求する短時間誘拐「パセオ・ミジョナリオ」の犯行に代表されるように、短時間で取れるだけ取る手口へ変化が見られます。被害に遭わないためには、流しのタクシーの利用は避け、タクシーアプリ等で無線タクシーを利用する必要があります。
4 日本人・日本権益に対する脅威
現在、コロンビアにおいて日本人及び日本権益を標的とした脅威情報は確認されていませんが、2017年6月、ボゴタ市のショッピングセンター「アンディーノ」で発生したテロ事件では、外国人を含む市民が死傷しており、今後も同様のテロ事件が発生する可能性は否定できません。また、過去に日本人がFARCに誘拐され殺害された事件が発生しているほか、現在もELNや武装犯罪組織が誘拐を行っており、都市部では偽装タクシーによる短時間誘拐の被害もあるため注意が必要です。
近年は、軍基地や政府関連施設だけでなく、警備や監視が手薄で一般市民が多く集まる場所(ソフトターゲット)を標的としたテロが世界各地で頻発しています。これらは組織性が低い単独犯によるテロが多く、事前の取締りが難しいため、今後も継続することが懸念されます。
特に、観光施設周辺、イベント会場、レストラン、ホテル、ショッピングモール、公共交通機関、宗教関連施設等は、警備や監視が手薄で不特定多数の人が集まるため、テロの標的となりやすく、常に注意が必要です。
テロはどこでも起こり得ること、日本人も標的となり得ることを十分に認識し、テロ・誘拐に巻き込まれることがないよう、「たびレジ」、海外安全ホームページ、報道等により最新の治安情報の入手に努め、状況に応じて適切かつ十分な安全対策を講じるよう心掛けてください。