タジキスタン
テロ・誘拐情勢
更新日 2025年06月25日
1 概況
(1)2024年1月、タジキスタンのハトロン州クロブ市において、自動車爆破テロ事件が発生し、与党人民民主党クロブ市議長が負傷しました。治安当局は、後の捜査により、本件犯行に関わったとされる容疑者8人を拘束しました。当局は、本件を「テロ」であったと認定しましたが、容疑者の属性については言及を避けています。
同年3月、治安当局は、首都ドゥシャンベ及びハトロン州ヴァフダト郡における新年祭祝賀イベントを狙ったテロ計画を未然に把握し、同計画に関わったとされる容疑者15人を拘束しました。当局は、本件の容疑者について「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」のメンバーであったと発表しています。
同年11月、ハトロン州シャムシディン・ショヒン郡の対アフガニスタン国境に所在の中国人金採掘民間企業宿営地が、アフガニスタン領内から越境した武装集団に襲撃される事件が発生し、中国人1人が死亡、中国人3人及びタジク人1人が負傷しました。実行犯はその後、逃走しています。当局は、実行犯グループの属性や事件の概要などの詳細を明らかにしていません。
(2)タジキスタン当局は、2014年から2019年にかけてISILに参加した当国出身者は約1,900人であると推計しており、中東や欧州においてはタジキスタン出身者がテロ実行犯となったり、テロ計画に関与したりして逮捕される事例が多数確認されており、依然として予断を許さない状況にあります。
2 各組織の活動状況または各地域の治安情勢
(1)タジキスタン政府は、ISILや「タリバーン」等、次の17団体をテロ組織として指定し、取締りを強化しています。
ア「アル・カーイダ(AQ)」
イ「東トルキスタン・イスラム運動」
ウ「トルキスタン・イスラム党(旧ウズベキスタン・イスラム運動)」
エ「タリバーン」
オ「ムスリム同胞団」
カ「ラシカル・エ・タイバ」
キ「イスラムグループ(ジャマート・イ・イスラミ・パキスタン)」
ク「ジャマート・タブリゴット」
ケ「自由タジキスタン」
コ「ヒズブット・タフリール」
サ「ジャモアット・アンサルロー」
シ「サラフィー」
ス「グループ24」
セ「ISIL」
ソ「ヌスラ戦線」
タ「イスラム復興党」
チ「タジキスタン国民同盟(PMT)」
(2)なかでも、ISILは、2015年1月、アフガニスタン、パキスタン及びその周辺の土地を含む地域に「ホラサーン州」の設立を宣言しました。同年3月には、ISILに参加するタジク人戦闘員が、タジキスタンで戦闘を行うと主張する動画をインターネット上に投稿し、同年5月には、元内務省特殊部隊(OMON)司令官がISILに参加しました。その後、以下のような事件が発生しています。いずれの事件でも、関与の真偽及びその程度は明らかではありませんが、ISILが犯行声明を発表しています。
ア 2018年7月にはドゥシャンベ市から南東約100kmに位置するダンガラ郡において、自転車で旅行中の外国人観光客7名が車で襲撃され、その後ナイフで刺され、4人が死亡した事件。
イ 2018年11月、フジャンド刑務所における囚人の暴動により囚人21人、看守2人が殺害された事件。
ウ 2019年5月、ドゥシャンベ市から東方約15kmに位置するヴァフダト刑務所において、ISILに参加した罪で服役中の囚人約30人が暴動を起こし、看守3人及び囚人29人が殺害された事件。
エ 2019年11月、20人から成る武装グループが、ウズベキスタンとの国境にある国境ポストを襲撃し、治安当局関係者2人及び犯人グループ15人が殺害され、残りの5人が逮捕された事件。
オ 2022年5月、アフガニスタン北東部からタジキスタン領内のタジキスタン軍事拠点を砲撃した事件。
(3)タジキスタン内戦時代の反政府統一戦線の野戦司令官が率いる「ジャモアット・アンサルロー」は2010年9月、ソグド州内務局施設に対する自爆テロを行っています。これに対し、タジキスタン治安当局は、指定テロ組織に関与した罪やシリアでの戦闘に傭兵を斡旋した罪等で、「ジャモアット・アンサルロー」のメンバーを逮捕するなど取締りを強めてきました。2023年4月及び8月、「ジャモアット・アンサルロー」のメンバーがアフガニスタンからタジキスタン側に越境する事案が発生しましたが、タジキスタン治安当局によって殺害されたと治安当局は発表しています。
3 誘拐事件の発生状況
2015年以降、日本人を含む外国人を標的とする誘拐事件は発生していません。過去にはタジキスタン南部のアフガニスタン国境沿いで麻薬販売に絡む誘拐事件が発生しています。2014年には、外国人の子供を標的とした誘拐未遂事件が発生したとの情報もあります。また、背景は不明ですが、同年12月には、アフガニスタン国内のイスラム過激派によるタジキスタン国境警備隊員の誘拐事件も発生しました。2016年3月にはダルヴォズ郡内のタジキスタン・アフガニスタン国境付近において、アフガニスタン武装集団による襲撃事件が発生し、トルコの企業道路建設業者のタジク人労働者2人が誘拐されましたが、後日解放されています。タジキスタン・アフガニスタン国境付近における誘拐事件のほとんどは麻薬売買に伴う金銭トラブルが原因とされていますが、昨今の政治情勢不安の影響もあることから注意が必要です。
4 日本人・日本権益に対する脅威
(1)タジキスタンにおいては、1998年7月に秋野元国連タジキスタン監視団(UNMOT)政務官他が殉職して以来、テロによる日本人・日本権益を標的としたテロ事件の被害は確認されていません。
(2)テロによる日本人の被害は、シリアやアフガニスタンといった渡航中止勧告や退避勧告が発出されている国・地域に限りません。テロは、日本人が数多く渡航する欧米やアジアを始めとする世界中で発生しており、これまでもチュニジア、ベルギー、バングラデシュ、スリランカ等においてテロによる日本人の被害が確認されています。
近年は、世界的傾向として、軍基地や政府関連施設だけでなく、警備や監視が手薄で不特定多数が集まる場所を標的としたテロが頻発しています。特に、観光施設周辺、イベント会場、レストラン、ホテル、ショッピングモール、公共交通機関、宗教関連施設等は、テロの標的となりやすく、常に注意が必要です。
また、外国人を標的とした誘拐のリスクも排除されず、注意が必要です。
テロ・誘拐はどこでも起こり得ること、日本人も標的となり得ることを十分に認識し、テロ・誘拐に巻き込まれることがないよう、「たびレジ」、海外安全ホームページ、報道等により最新の治安情報の入手に努め、状況に応じて適切かつ十分な安全対策を講じるよう心掛けてください。