カザフスタン
テロ・誘拐情勢
更新日 2025年07月24日
1 概況
(1)2022年1月、アルマティを中心とした全土で騒擾が発生し、軍・治安当局職員19人を含む238人が犠牲となりました。事件発生直後から発令されていた「非常事態宣言」、「テロ警戒レベル赤(最高度)」は同年2月7日までに全て解除されましたが、当地におけるイスラム過激派以外の治安攪乱要因が改めて浮き彫りとなったほか、騒擾時に治安機関や武器店等から強奪された銃器の多くが未だに回収されておらず、治安対策上の懸念要因となっています。
(2)イスラム過激派によるテロは、西部のアクトベで2016年6月6日に発生した事件以降発生していませんが、準備・未遂段階での摘発は毎年報告されているほか、当局は過激主義プロパガンダに対する取締りや、テロ組織の資金源となる違法な薬物取引の摘発を続けており、専門家は現状を「テロに向けた準備段階・潜伏期」と指摘しています。また、国家保安委員会幹部は2023年9月の国際会議で、カザフスタンにおけるテロの脅威が高止まりしていると発言しています。
(3)2021年8月にアフガニスタン全土を掌握した「タリバーン」について、カザフスタン政府は2005年3月15日以降「カザフスタンで活動が禁止されているテロ組織等」に指定していましたが、2023年12月29日に指定を解除しました。カザフスタンはアフガニスタンとは国境を接していませんが、「タリバーン」と協力関係にある急進的勢力の中には、アフガニスタンから中央アジアに跨がる統一国家樹立を目標とする組織も存在しており、テロリストがウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン等を経てカザフスタンに潜入する可能性も指摘されています。
(4)カザフスタン国内には約2万人の過激主義者がいるとされています。また、約500人のカザフスタン人が外国人戦闘員としてシリアやイラクに渡航したとされ、カザフスタン政府は2019年から帰還者に対する社会復帰作戦「ジュサン」を実施しています。
(5)カザフスタンでは、結婚目的で少女を誘拐する略奪婚の慣習が広く存在し、特に南部ではその傾向が顕著であるとされています。結婚目的の少女誘拐に関する確実な統計データは存在しないものの、2023年8月には、2019年以降200件超が刑事事件として記録されているとの報道がなされています。
2 各組織の活動状況または各地域の治安情勢
(1)カザフスタンで活動が禁止されているテロ組織等
カザフスタンでは現在、「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」を含む21のテロ組織等(注)の活動が禁止されていますが、2024年中、これらの組織等によりカザフスタン国内で実際にテロ事件が引き起こされた例は、確認されていません。
(2)2024年中のテロ組織等との関連が疑われる事件の例
ア 1月29日、国家保安委員会は、2020年からシリアで国際テロ組織の活動に関与していたとみられる22歳のカザフスタン人男性(トゥルケスタン州出身)がトルコ経由でカザフスタンに送還されたと発表しました。
イ 2月2日、国家保安委員会及び検察は、トゥルケスタン州居住の男性をテロリズム宣伝容疑によりシムケント市内で拘束したと発表しました。
ウ 7月22日、国家保安委員会及び検察は、シムケント市において、カザフスタンで禁止されている過激派組織「ヒズブ・ウト・タハリール」の構成員22人からなる細胞組織を摘発し、捜索の過程で禁止されている宗教書やビラ等を押収したと発表しました。
エ 11月4日、内務省はトルキスタン州ケンタウ市において、「ヒズブ・ウト・タハリール」の細胞組織のメンバー10人を拘束し、過激な宗教文献等を押収したと発表しました。
(注)Al-Qaeda(「アル・カーイダ」)、The Kurdistan People’s Congress(「クルド労働者党」)、The Islamic Movement of Uzbekistan(「ウズベキスタン・イスラム運動」)、The East Turkistan Islamic Movement(「東トルキスタン・イスラム運動」)、Asbat al-Ansar(「アスバット・アル・アンサール」)、The Muslim Brotherhood(「ムスリム同胞団」)、Boz Gourde(「ボズ・グルード」)、Jamaat mujahideen of Central Asia(「中央アジアのジャマート・ムジャヒディン」)、Lashkar-e-Toiba(「ラシュカレトイバ」)、The Social Reform Society(「社会変革協会」)、Hizb ut-Tahrir-al-Islami(「ヒズブ・ウト・タハリール」)、Aum Shinrikyo(「オウム真理教」)、The East Turkestan Liberation Organization(「東トルキスタン解放機構」)、The Islamic Party of Turkestan(「トルキスタン・イスラム党」)、Jund al-Khilafah(「ジュンド・アル・ヒラファ」)、Trust. Education. Life(「トラストエデュケーションライフ」)、Tablighi Jamagat(「タブリーギ・ジャマート」)、At-Takfir Wal-Hijra(「タクフィール・ワル・ヒジュラ」)、Islamic State(ISIL)、Front of An-Nusra(「アル・ヌスラ戦線」)、Aikyn incar(「ヤクン・インカル」)
3 誘拐事件の発生状況
2024年、カザフスタンでは、74件の誘拐事件が発生したと統計当局が公表しています。被害者数は80人(カザフスタン国籍者74人、独立国家共同体(CIS)諸国籍者2人、外国籍者4人)でした。
2022年11月、カラガンダ州でインド国籍の男性に対する金銭目的の誘拐事件が発生しました。
2023年8月、アルマティでタジキスタン人男性を誘拐して身代金2万ドルを要求したとして、同じくタジキスタン人6人が逮捕されました。
4 日本人・日本権益に対する脅威
現在のところ、カザフスタンにおいて、テロ・誘拐による日本人の被害は確認されていません。
他方、テロによる日本人の被害は、渡航中止勧告や退避勧告が発出されている国・地域に限りません。テロは、日本人が数多く渡航する欧米やアジアを始めとする世界中で発生しており、これまでもチュニジア、ベルギー、バングラデシュ、スリランカ等においてテロによる日本人の被害が確認されています。
近年は、世界的傾向として、軍基地や政府関連施設だけでなく、警備や監視が手薄で不特定多数が多く集まる場所を標的としたテロが頻発しています。特に、観光施設周辺、イベント会場、レストラン、ホテル、ショッピングモール、公共交通機関、宗教関連施設等は、テロの標的となりやすく、常に注意が必要です。
また、外国人を標的とした誘拐のリスクも排除されず、注意が必要です。
テロ・誘拐はどこでも起こり得ること、日本人も標的となり得ることを十分に認識し、テロ・誘拐に巻き込まれることがないよう、「たびレジ」、海外安全ホームページ、報道等により最新の治安情報の入手に努め、状況に応じて適切かつ十分な安全対策を講じるよう心掛けてください。