オーストラリア
テロ・誘拐情勢
更新日 2025年01月31日
1 概況
(1)豪州政府が公表しているテロ警戒レベルは、2024年8月をもって、全体で5段階のうち下から3番目の「蓋然性がある(PROBABLE)」に引き上げられています。今回のテロ警戒レベルの引き上げは、特定の事案や過激主義に基づくものではないとするも、幅広い過激主義や世界情勢に感化される国民の増加に対する警戒の意味が込められているとされています。治安当局は引き続きテロ容疑者の摘発及びテロ攻撃の未然防止に取り組んでいます。
(2)移民国家である豪州の中には、過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」を始めとする海外のテロ組織の影響を受け、これらに対して資金・物資調達等の後方支援を行う者や、自ら紛争地域に渡航してテロ組織とともに戦う、いわゆる外国人戦闘員となる者が存在しています。また、こうした海外の情勢や過激思想に共鳴して国内で過激化する、いわゆるホームグロウン型テロリストの問題が発生しており、治安当局は引き続き警戒感を強めています。2024年にNSW州で発生した教会に対する襲撃テロ事件は、16歳の少年が宗教的に動機づけられた暴力主義行為に及び、大規模な暴動が勃発しました。本件に影響されたテロ未遂事案も複数発生しています。また、VIC州で起きたシナゴーグ放火事件は反ユダヤ主義者による宗教的憎悪に基づく攻撃と見られています。
(3)豪州政府は、テロの脅威は日々複雑化、多様化しており、その手法も絶えず変化していることから、テロ対策も常に情勢の変化に適応しなければならないと主張し、引き続きテロ容疑者の摘発の推進、連邦議会議事堂や警察等政府関係施設の警備強化及び若者の過激化防止対策に力を入れています。また、大規模なイベント等における混雑場所でのテロ未然防止対策を推進しています。
(4)豪州政府は、引き続き、インターネット等を介して自己過激化する者や、極右過激主義者の増加に警戒感を強めています。
2 各組織の活動状況または各地域の治安情勢
(1)2014年後半からシリア・イラクにおいて活動するISILが台頭し、これに対する軍事作戦に豪国防軍が参加する一方で、豪州から外国人戦闘員がISILに参加する例や、ISILによる扇動や直接の指示を受けた豪州国民による国内テロ計画等が散見された経緯があります。紛争地域でテロ活動に参加した人が帰国し、新たなスキルやネットワークを持ち込むことは国家安全保障に対する脅威であり、豪州連邦警察は海外の紛争にも注意を向けています。また、2023年10月以降は、豪州の大都市において、ガザ地区での戦闘行為を非難する集会や、パレスチナの自由を訴える大人数による行進などが頻繁に発生しており、シドニーやメルボルンなどでは、逮捕者が出る事件も発生しています。
(2)連邦警察・各州当局では最近のテロ情勢を踏まえ、シドニー・メルボルン等の都市のみならず、各地域の大規模なイベント等における混雑場所でのテロ未然防止対策を推進しています。このような状況を考慮し、不測の事態に巻き込まれないよう、➀最新の関連情報の入手に努める、➁テロ・誘拐等の標的となりやすい場所(※)を訪れる際には、周囲の状況に注意を払い、不審な人物や状況を察知したら速やかにその場を離れる等、安全確保に十分注意を払う、といった対応に努める必要があります。
(※)リゾート施設、各種イベント会場、観光施設、レストラン、ホテル、ショッピングモール、スーパーマーケット、劇場、コンサート会場等人が多く集まる施設、教会・モスク等宗教関係施設、公共交通機関、政府関連施設(特に軍、警察、治安関係施設)等
3 誘拐事件の発生状況
豪州では、多額身代金目的の誘拐事件や政治的背景を有する誘拐等事件の発生は報告されていません。豪州統計局が公表している2023年犯罪統計(https://www.abs.gov.au/statistics/people/crime-and-justice/recorded-crime-victims/2023 )によれば、誘拐・略取(kidnapping/abduction)の被害者は501人であり、昨年から6人減となっています。この年に記録された誘拐事件についての約60%が住宅地で発生しており、被害者の約半分が女性でした(266人)。家庭内暴力に関連する被害は3分の1以上(34%)であり、被害者全体の内約30%は25歳から34歳でした。
4 日本人・日本権益に対する脅威
2024年中、豪州において我が国及び日本人を狙ったテロの脅威は認められていません。
他方、テロによる日本人の被害は、シリアやアフガニスタンといった渡航中止勧告や退避勧告が発出されている国・地域に限りません。テロは、日本人が数多く渡航する欧米やアジアを始めとする世界中で発生しており、これまでもチュニジア、ベルギー、バングラデシュ、スリランカ等においてテロによる日本人の被害が確認されています。
また、外国人を標的とした誘拐のリスクも排除されず、注意が必要です。
テロ・誘拐はどこでも起こり得ること、日本人も標的となり得ることを十分に認識し、テロ・誘拐に巻き込まれることがないよう、「たびレジ」、海外安全ホームページ、報道等により最新の治安情報の入手に努め、状況に応じて適切かつ十分な安全対策を講じるよう心掛けてください。