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パキスタン
テロ・誘拐情勢

更新日 2025年01月06日

1 概況
 パキスタンにおける2023年中のテロ発生件数は306件であり、3年連続増加となりました(昨年比+17%)。各州における発生状況は、ハイバル・パフトゥンハー州(旧連邦直轄部族地域(旧FATA)含む。以下、「KP州」)が174件(前年比+5件)、バロチスタン州が110件(前年比+31件)、シンド州が15件(前年比+13件)、パンジャーブ州が6件(前年比+3件)、イスラマバードが0件(前年比-2)でした。パキスタン最大都市であるシンド州カラチ市では、14件(前年比+8件)でした。ギルギルット・バルチタン地域(以下「GB」)は1件(前年同)でした。パキスタンの安全保障と治安は、西方の隣国アフガニスタンの情勢と密接に関連しています。同国の反政府武装勢力タリバーンが各県都に向けて大規模攻勢をかけ、攻略を開始し始めた2021年7月以降、パキスタンでも同国との国境地域でパキスタン・タリバーン(TTP)やバローチ分離主義勢力によるテロ件数が増加傾向を示しました。また、2022年11月にTTPが政府との停戦合意を破棄し、全土で攻撃を開始すると宣言して以降、TTPは治安部隊等に対するテロ攻撃を激化させており、特にKP州でテロが増加しました。
 軍・政府機関のみならず、中国パキスタン経済回廊(CPEC)関連事業の従事者などのソフトターゲットを攻撃対象とするテロ事件も発生しており、たとえ本来の攻撃対象でなくとも、対象の誤認や攻撃の巻き添えとなって被害に遭う懸念もあり、邦人を含むその他の外国人や外国権益へのテロの脅威は依然として存在すると言えます。
 誘拐事件については、パキスタン人を対象としたものがほとんどです。銃を用いた脅迫による強盗や誘拐、また、誘拐後に殺害されて発見される事件が頻繁に発生していることから、引き続き注意する必要があります。

2 各組織の活動状況または各地域の治安情勢
(1)パキスタンのタリバーン過激派勢力(パシュトゥーン系ミリタント(武装勢力))
  ア パキスタン・タリバーン運動(TTP:Tehrik-e Taliban pakistan)
    TTPは、部族地域(旧FATA)及びKP州の地元武装勢力の緩やかな連合体として、2007年末に結成されました。南北ワジリスタン郡から一時はKP州スワート郡まで勢力を拡げ、政府機関等に対する攻撃を繰り返し、国内ミリタントの最大勢力を形成しました。2014年の軍事作戦によって旧FATAから主力が掃討されたTTPは組織勢力の衰退が数年間は顕著でしたが、近年、次第に勢力を回復しており、依然としてパキスタンにおける最大のテロ勢力です。また、暗視スナイパーライフルなど近代装備を保有し攻撃力が強化されています。2023年中、TTPは151件(前年比+62件)のテロに関与しました。これらの攻撃により、281人が死亡(前年比+146人)し、555人が負傷しました。151件のテロについては、132件がKP州、15件がバロチスタン州、3件がパンジャーブ州、カラチ市で1件発生しました。また、アフガニスタン側からの越境攻撃のほとんどがTTPの犯行でした。2022年にTTPが行った攻撃のほとんどはKP州の旧FATAでの発生でしたが、バロチスタン州及びパンジャーブ州においてもテロを敢行しその存在感を示しました。
  イ ローカル・タリバーン
    部族地域を含めKP州には複数の小規模過激派グループが存在します。TTPや他のパキスタン・タリバーン・グループとイデオロギーを共有していますが、そのほとんどは独立して活動する別働隊的な存在です。2023年中、これらのグループは14件(前年比-24件)のテロを敢行し、7人が死亡しました。ローカル・タリバーンは、KP州においてポリオワーカー、治安部隊、政治指導者及び部族民等を標的とした攻撃を行っています。
(2)イスラム国(Islamic State(以下、「IS」)関連組織
   ISKP(イスラム国ホラサン州)は2023年中、17件のテロ(KP州10件、バロチスタン州7件)を敢行しました。これらのテロで155人が死亡し、222人が負傷しました。また、KP州バジョール郡及びバロチスタン州マストゥング郡で大規模自爆テロを実行しました。
(3)インド亜大陸のアル・カーイダ(AQIS)
   近年同様、2023年中、インド亜大陸のアル・カーイダ(AQIS)はパキスタンでテロを敢行しませんでした。AQISはパキスタン及びアフガニスタンにおいて存在感を持ち続けており、同盟関係にある地元組織も存在します。アフガン・タリバーンとの関係は維持されており、TTPの再統合や勢力増加に大きく寄与したと言われています。アフガニスタンから米軍が撤退した後、AQISはタリバーンやパキスタンのタリバーン過激派勢力との強固な関係を頼りに、アフガニスタン・パキスタン地域への復活を計画していたとも言われています。
(4)「ラシュカレ・ジャングヴィー」(Lashkar-e-Jhangvi: LeJ)
   スンニ過激派組織シパーヘ・サハーバから分派した最強硬派であり、パキスタンにおいて最も危険なスンニ過激派組織とされています。2001年8月14日に非合法化されました。これまでシーア派コミュニティを対象にテロを繰り返していましたが、2015年から2016年に相次いだ治安当局による主要幹部の殺害や拘束で組織は打撃を受けました。
(5)「シパーヘ・ムハンマド・パキスタン」(Sipah-e-Muhammad Pakistan、以下、「SMP」)
  シーア過激派組織です。過去20年間で、同組織はシパーヘ・サハーバ・パキスタン(Sipah-e-Sahaba Pakistan)の活動家、ジャマーテ・イスラミ(Jamaat-i-Islami)、聖職者、スンニ派マドラサの学生、そしてビジネスマンを標的としてきました。
(6)分離独立主義グループ
  ア バローチ分離主義勢力
    2023年にバロチスタン州で発生したテロは、バローチ解放軍(Balochistan Liberation Army、以下「BLA」)及びバロチスタン解放戦線(Balochistan Liberation Front、以下「BLF))の2大グループが、そのほとんどを実行しました。
  (ア) BLA
      2023年中、BLAは49件(前年比+3件)のテロを敢行しました。48件はバロチスタン州、1件はカラチ市で行われました。これらの攻撃により治安機関員20人、民間人24人、過激派構成員4人が死亡しました。BLAによる攻撃は、バロチスタン州の18地区にまで広がり、より頻繁に攻撃が行われました。BLAによる攻撃の対象は、約60パーセントが治安機関でした。そのほかには、政府関係者等が標的とされました。
  (イ) BLF
      2023年中、BLFは16件(前年比+9件)のテロを敢行しました。これらの攻撃で治安機関員23人、民間人2人が死亡し、25人が負傷した。そのほとんどが治安機関を標的としたものであり、そのほかには非バローチ族も被害に遭いました。
  (ウ) バローチ共和軍(Baloch Republican Army、以下「BRA」)
      BRAは、2023年中4件(前年同)のテロを敢行しました。これらのテロで2人が死亡、6人が負傷しました。攻撃対象は治安機関、医療関係施設でした。
  イ シンド分離主義勢力
    シンド国革命軍(Sindhudesh Revolutionary Army、以下「SRA」)がシンド州においてテロを4件(1人死亡、6人負傷)敢行しました。標的は治安機関及び送電線でした。バローチ分離主義勢力とシンド分離主義勢力の間でオペレーション実行上の結びつきが強くなっていると言われ、SRAは主にBLAとBRAとの連携を強めています。

3 誘拐事件の発生状況
  パキスタンにおける誘拐事件はパキスタン人対象のものがほとんどですが、過去には外国籍の旅行者が被害者となる誘拐事件が発生しています。
  また、銃を用いた脅迫による強盗や誘拐未遂事件、誘拐後に殺害される事件が頻繁に発生していることから、継続して警戒する必要があります。
 当地では、過去に犯罪組織が誘拐した人質をテロ組織に売り渡すケースもあったほか、資金獲得手段としてテロ組織自らパキスタン人の富裕層や外国人を誘拐する事例も発生しています。この場合、身代金の他にパキスタン政府に拘束されている仲間の釈放を要求することも散見され、事態の長期化・複雑化を余儀なくされています。

4 日本人・日本権益に対する脅威
 テロの件数は3年連続増加となりました。攻撃対象の多くは、軍・治安機関関係者であるものの、依然としてソフトターゲットに対する攻撃が一定頻度で発生しています。そのため、当地外交団において、家族の帯同や居住地域を制限している例が少なからず見受けられます。 
 
 邦人被害について、2024年4月19日、カラチ市内コーランギー地区ランディー・タウン、セクター20において、日本人複数名が乗車する車列に対する襲撃事件が発生し、日本人1名が負傷したほか、警備員1名が死亡、警備員1名及び通行人1名の計2名が負傷しました(攻撃に参加したテロリスト2名も死亡)。
 外国人被害について、2022年4月26日午後、シンド州カラチ市のカラチ大学に隣接する孔子学院前で自爆テロが発生し、中国人教員3名を含む4人が死亡、2人が負傷しました。
 同年9月28日午後、カラチ市サダル地区にある歯科医院内で殺害事件が発生し、中国人1名が射殺され、2名が負傷しました。
 2024年3月26日、KP州においてダースー水力発電プロジェクトに従事するスタッフらを乗せた車両が建設現場に向かう途上で攻撃に遭い、中国人5名とパキスタン人1名が死亡しました。
 2024年9月22日、KP州スワート郡で、12か国の外交官を含む代表団が、イスラマバードに戻る途中、車列警護していた警察の車両が即席爆発装置(IED)による攻撃を受け、警察官1名が死亡し、他5名が負傷しました。外交官をはじめとした外国人は無傷でした。
 2024年10月6日、シンド州カラチ市のジンナー国際空港付近にて中国人が乗車した車列を狙ったテロ事件が発生し、中国人2名を含む3名が死亡し、17名が負傷しました。本件につき、BLAが犯行声明を発出しました。
 パキスタン国内過激派が、軍・政府機関のみならずソフトターゲットをも攻撃対象としていることは否定できず、たとえ本来の攻撃対象でなくとも、対象の誤認や攻撃の巻き添えとなって被害に遭う懸念もあります。そのため、邦人を含むその他の外国人や外国権益へのテロの脅威は依然として存在すると言え、テロや誘拐の被害に遭わないよう、「たびレジ」、海外安全ホームページや報道等により最新の治安情報の入手に努め、状況に応じて適切で十分な安全対策を講じるよう心掛けてください。

テロについて

 「テロ」について国際的に確立された定義は存在しませんが、一般には、特定の主義主張に基づき、国家等にその受け入れを強要する又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等を指すとされています。本情報は、このようないわゆる「テロ」に該当するか否かにかかわらず、外務省が報道等の情報に基づいて、海外に渡航・滞在される邦人の方々の安全確保のための参考として編集したものであり、本情報の内容がそのまま外務省の政策的な立場や認識を反映するものではありません。
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