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パキスタン
テロ・誘拐情勢

更新日 2022年09月01日

1 概況
 パキスタンにおける2021年中のテロ発生件数は207件であり、2021年まで7年連続で前年比減少を続けていましたが、8年ぶりに増加に転じました。各州における発生状況は、ハイバル・パフトゥンハー州(旧FATA含む。以下、「KP州」)が111件(前年比+32件)、バロチスタン州が81件(前年比+39件)、シンド州が8件(前年比-10件)、パンジャーブ州が5件(前年比-2件)、イスラマバードが2件(前年比+2件)でした。パキスタン最大都市であるシンド州カラチでは、5件(前年比-10件)でした。パキスタンが実行支配するアーザード・ジャンムー・カシミール及びギルギット・バルティスタン地域におけるテロの発生はありませんでした。
 パキスタンの安全保障と治安は、西方の隣国アフガニスタンの情勢と密接に関連しています。同国の反政府武装勢力タリバーンが各県都に向けて大規模攻勢をかけ、攻略を開始し始めた2021年7月以降、パキスタンでも同国との国境地域でパキスタン・タリバーン(TTP)やバローチ分離主義勢力によるテロ件数が増加傾向を示しました。7月から9月までの3か月で、2021年上半期(1月~6月)にパキスタン全土で発生したテロの86パーセントにあたる66件のテロが発生しました。特に、タリバーンがアフガニスタン全土を制圧した8月以降はテロの件数の増加が顕著となり、同国内で発生している、ISホラーサーン州(以下IS-K)とタリバーンとの抗争の影響が既にパキスタンにも波及し始め、バロチスタン州とKP州でタリバーン関係者に対する襲撃が複数回発生しました。今後はアフガニスタンとの国境地域による掃討作戦、都市部を中心とする法執行機関の取締りが如何に強化されるのかを注視していく必要があります。
 誘拐事件については、パキスタン人を対象としたものがほとんどです。銃を用いた脅迫による強盗や誘拐未遂事件等の発生も見られ、またパキスタン人が誘拐される、または誘拐後に殺害されて発見される事件が頻繁に発生していることから、引き続き注意する必要があります。

2 各組織の活動状況または各地域の治安情勢
(1)パキスタンのタリバーン過激派勢力(パシュトゥーン系ミリタント)
  ア TTP
 TTPは、部族地域(旧FATA)及びKP州の地元武装勢力の緩やかな連合体として、2007年末に結成されました。南北ワジリスタンから一時はKP州スワート(Swat)まで勢力を拡げ、政府機関等に対する攻撃を繰り返し、国内ミリタントの最大勢力を形成しました。2014年の軍事作戦によって旧FATAから主力が掃討されたTTPは組織勢力の衰退が数年間は顕著でしたが、近年、次第に勢力を回復しており、依然としてパキスタンにおける最大のテロ勢力です。この最大の要因は、2020年8月にヒズブル・アハラール(Hizbur Ahrar)とジャマートゥル・アハラール(Jamaat-ul Ahrar)との再統合やその他の組織との合流が実現し、攻撃力及び作戦遂行能力が強化されたことにあります。
 2021年中、TTPは87件のテロに関与したとされ、2020年と比較して約84%の増加となりました。これらの攻撃により、158人が死亡(前年比+102人)し、200人が負傷しました。87件のテロについては、78件がKP州、5件がバロチスタン州、残りの4件はパンジャーブ州及びイスラマバードで発生しました。これらとは別に、アフガニスタン側からの越境攻撃のほとんど(14件中12件)がTTPの犯行でした。これらの攻撃で13人(治安部隊員11人、市民2人)が死亡しました。
    
  イ ローカル・タリバーン
 部族地域を含めKP州には複数の小規模過激派グループが存在します。TTPや他のパキスタン・タリバーン・グループとイデオロギーを共有していますが、そのほとんどは独立して活動する別働隊的な存在です。2021年中、これらのグループは22件(前年比+8件)のテロを敢行し、24人が死亡しました。ローカル・タリバーンによる攻撃は、KP州において過激派集団は依然として活動し、ポリオワーカー、治安部隊、政治指導者及び部族民を標的とした攻撃を行っています。

(2)イスラム国(Islamic State(以下、「IS」)関連組織
 パキスタンにおけるIS関連組織は、2021年にパキスタンでのテロ攻撃を激化させました。2020年にクエッタとペシャワールで敢行された大規模な攻撃と比較して小規模ではありますが、IS-Kは、2021年中、8件のテロ(KP州7件、バロチスタン州1件)を敢行しました。これらの
テロで21人が死亡し、4人が負傷しました。バロチスタン州で行われた攻撃では、クエッタから8kmほど離れたボーラーン(Bolan)地区にあるマッチュ(Mach)炭鉱から拉致されたシーア派系のハザラ人炭鉱労働者11人が殺害されました。KP州では、アフガニスタン人タリバーン指
導者、シク教徒(漢方医)、警察幹部、政治指導者等を攻撃対象として、ペシャワールで3回、バジョール(Bajaur)で2回、そしてクラム(Kurram)と南ワジリスタンで1回ずつ敢行しました。治安部隊等は、シンド州カラチ等における10回の捜索活動で、IS-Kの活動家10人を拘束したほか、複数のIS-K関連組織の活動家がテロ対策のオペレーションで殺害されました。
(3)アル・カーイダ(AQ)
 近年同様、2021年中、インド亜大陸のアル・カーイダ(AQIS)はパキスタンでテロを敢行しませんでした。AQはパキスタン及びアフガニスタンにおいて存在感を持ち続けており、同盟関係にある地元組織も存在します。アフガン・タリバーンとの関係は維持されており、TTPの再統合や勢力増加に大きく寄与したと言われています。アフガニスタンから米軍が撤退した後、AQはタリバーンやパキスタンのタリバーン過激派勢
力との強固な関係を頼りに、アフガニスタン・パキスタン地域への復活を計画していたとも言われています。

(4)「ラシュカレ・ジャングヴィー」(Lashkar-e-Jhangvi: LeJ)
 スンニ過激派組織シパーヘ・サハーバから分派した最強硬派であり、パキスタンにおいて最も危険なスンニ過激組織とされています。2001年8月14日に非合法化されました。これまでに、主としてシーア派コミュニティを対象にテロを繰り返していましたが、2015年から2016年に相
次いだ治安当局による主要幹部の殺害や拘束で組織は打撃を受けました。また、2021年中にテロを敢行していません。

(5)「シパーヘ・ムハンマド・パキスタン」(Sipah-e-Muhammad Pakistan、以下、「SMP」)
 シーア過激派組織です。過去20年間で、同組織はシパーヘ・サハーバ・パキスタン(Sipah-e-Sahaba Pakistan)の活動家、ジャマーテ・イスラミ(Jamaat-i-Islami)、聖職者、スンニ派マドラサの学生、そしてビジネスマンを標的としてきました。2021年中、SMPはカラチで1件(前年同)のテロを敢行しました。

(6)分離独立主義グループ
  ア バローチ分離主義勢力
  2021年にバロチスタン州で発生したテロには、5つのバローチ分離主義勢力と不特定のグループが関与したと考えられますが、BLA及びバロチスタン解放戦線(Balichistan Liberation Front、以下「BLF))の2大グループが、そのほとんどを実行しました。この2大グループは、バロチスタン州以外の地域となるカラチでも3件の攻撃を行いました。
  (ア) BLA
 2021年中、BLAは38件(前年比+19件)のテロを敢行しました。37件はバロチスタン州、1件はカラチで行われました。これらの攻撃により72人(治安機関員43人、民間人20人、過激派構成員9人)が死亡しました。BLAによる攻撃は、バロチスタン州の15地区にまで広がり、より頻繁に攻撃が行われました。BLAによる攻撃の対象は、68パーセント以上が治安機関(員)でした。そのほかには、政府高官等、非バローチ民族、CPEC関係者(中国人労働者)が標的とされました。
  (イ)BLF
  2021年中、BLFは25件(前年比+20件)のテロを敢行しました。発生場所はバロチスタン州で23件、カラチで2件でした。これらの攻撃で18人(治安機関員17人、武装勢力1人)が死亡し、54人が負傷した。そのほとんどが治安機関を標的としたものであり、そのほかは中国人労働者も被害に遭いました。
  (ウ) バロチスタン共和軍(Baloch Republican Army、以下「BRA))
  BRAは、2021年中4件(前年比+1件)のテロを敢行しました。これらのテロで3人が死亡、1人が負傷しました。2件は低強度の地雷が使用され、2件は銃撃によるものでした。攻撃対象は治安機関(員)、携帯電話用電波塔でした。
  イ シンド分離主義勢力
  シンド分離主義勢力では唯一、シンド国革命軍(Sindhudesh Revolutionary Army、以下「SRA」)がシンド州においてテロを3件(1人死亡、4人負傷)敢行しました。標的は治安機関、軌道敷及びパンジャーブ人移民でした。バローチ分離主義勢力とシンド分離主義勢力の間でオペレーション実行上の結びつきが強くなっていると言われ、主にSRAはBLAとBRAとの連携を強めています。カラチおいて実行された最近の攻撃は、この連携強化を背景としたものであると言われています。

3 誘拐事件の発生状況
 パキスタンにおける誘拐事件はパキスタン人対象のものがほとんどです。2021年中では、パンジャーブ州において外国籍の旅行者が被害者となる誘拐事件が発生し、また7月16日、アリーヘール駐パキスタン・アフガニスタン大使(当時)の息女がイスラマバード市内においてタクシー内で暴行を受け、気絶した状態で町中において発見されるという事件が発生するなど、外国人を対象とする誘拐事件が発生しています。駐パキスタン・アフガニスタン大使息女の事件に関して、後日パキスタン内務省は、被害者とされる大使息女の行動に不審な点があることなどを具体的に示し、狂言の可能性に言及しましたが、事件の真相は明らかとなっていません。
 銃を用いた脅迫による強盗や誘拐未遂事件等の発生も見られ、また人が誘拐される、または誘拐後に殺害されて発見される事件が頻繁に発生していることから、継続して警戒する必要があります。
 当地では、過去に一般犯罪組織が誘拐した人質をテロ組織に売り渡すケースもあったほか、資金獲得手段としてテロ組織自らパキスタン人の富裕層や外国人を誘拐する事例も発生しています。この場合、身代金の他にパキスタン政府に拘束されている仲間の釈放を要求することも散見され、事態の長期化・複雑化を余儀なくされています。

4 日本人・日本権益に対する脅威
 当地のテロ情勢は2021年に8年ぶりにテロ件数が増加したとはいえ、10年前と比較して数値的には大きく改善しました。攻撃対象の多くは、軍・治安機関関係者であるものの、依然としてソフトターゲットに対する攻撃が一定頻度で発生しています。そのため、当地外交団において、家族の帯同や居住地域を制限している例が少なからず見受けられ、同制限を課している国が制限を緩和したという例はほとんどありません。 
 2021年4月、クエッタ所在のセレナホテルにおけるテロでは、発生時にホテル敷地内にいなかったとはいえ、発生日に駐パキスタン・中国大使が滞在しており、また同年7月、KP州コーヒスタン郡ダースーにおけるダムプロジェクトにおいて、中国人作業員多数が乗車したバスがIEDによる攻撃を受け死傷者を出すなど、近年中国人に対する襲撃が散発的に発生しています。特に、同ダム建設プロジェクトには日本企業がコンサルタントとして参加しており、数人の邦人職員が現地に駐在していたことから、邦人が巻き添えとなる最悪の事態も懸念されたところでした。
 パキスタン国内過激派が、軍・政府機関のみならずソフトターゲットを攻撃対象とすることは否定できず、攻撃対象でなくとも、攻撃の巻き添えとなって被害に遭う懸念もあり、中国人等と比較して脅威の度合いは低いものの、邦人を含むその他の外国人や外国権益へのテロの脅威は依然として存在すると言えます。
 テロはどこでも起こり得ること、日本人も標的となり得ることを十分に認識し、テロの被害に遭わないよう、海外安全ホームページや報道等により最新の治安情報の入手に努め、状況に応じて適切で十分な安全対策を講じるよう心掛けてください。

テロについて

 「テロ」について国際的に確立された定義は存在しませんが、一般的には、特定の主義主張に基づき、国家等にその受け入れを強要する又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等を指すとされています。本情報は、このようないわゆる「テロ」に該当するか否かにかかわらず、外務省が報道等の情報に基づいて、海外に渡航・滞在される邦人の方々の安全確保のための参考として編集したものであり、本情報の内容がそのまま外務省の政策的な立場や認識を反映するものではありません。
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