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パキスタン

2018年11月09日

1. 概況
(1)パキスタンにおいては,2014年末に発生したペシャワールにおける学校襲撃事件を受けて,テロを許さないとの機運が高まり,軍事作戦を始めとする各種テロ対策が政府一丸となって進められました。
 2017年,政府一体となってのテロ対策が奏功したこともあり,テロ事件発生件数370件(前年比-16%),死者数815人(前年比-10%),負傷者数1,736人(前年比+7%)と大幅に減少し,4年連続での減少となりました(テロ事件が最悪であった2009年のテロ事件発生件数2,586件,死者数3,021人からは,大幅に改善されたといえます)。
 2017年のテロ事件発生件数のうち,自爆テロは2016年の17件と比べ24件となり増加しましたが,死者数286人(前年比-25%)及び負傷者数723人(前年度比-15%)共に減少しました。テロリストの主な攻撃対象は,警察等治安関係者,政党関係者,少数宗派関係者等であり,攻撃のソフトターゲット化により一般市民がまきこまれる事案も増えました。他方で,外国人を標的とした事案も限定的ですが発生しています。

(2)テロ事件の発生地域については,2017年ではバロチスタン州が3年連続で最多となっており(テロ事件数165件,死者288人,負傷者532人),次に旧連邦直轄部族地域(旧FATA)であるハイバル・パフトゥンハー州(以下「KP州」)が続きます。また,カラチのテロ事案も大きく減少しています。首都イスラマバードにおいては,テロ件数は3件と2016年と同様でしたが,死者数が1人から2人,負傷者数が4人から5人となっています。

(3)テロ攻撃の対象は,2017年のテロ事件数370件中160件(約43%)が軍・治安機関関係者に対する攻撃で最多となっています。続いて,民間人(「少数宗派」,「メディア関係者」等の類型に当てはまらない一般市民)を対象にしたテロ事件が86件(23%),次いで政府関係者(16件),シーア派学者・コミュニティ(16件),政党関係者(13件),親政府系部族関係者(12件)となっています。

(4)攻撃手法の特徴は,手製爆弾(IED)によるものが159件(43%),続いて2016年に最多であった銃撃が141件(38%),次に手榴弾33件,自爆24件,ロケット攻撃8件と続いています。
 自爆テロ攻撃による死者の内訳は,民間人が207人(40%),警察官が40人,軍人が17人となっています。自爆テロ事件数の地域的内訳はクエッタが6件,ペシャワールとラホールがそれぞれ3件となっています。2017年に最大の被害を出した自爆テロ事件は,2月16日にシンド州セフワンで発生したもので,76人が死亡し,250人が負傷しました。この事件はISILが犯行声明を出しています。

(5)2017年のテロ情勢の特徴として,ISILが犯行を主張する事件の発生が挙げられます。アフガニスタンに拠点を置く「ホラーサーン州」と,これに影響を受けた国境付近の地元ミリタントによるテロ事件が続発し,5月にはクエッタで中国人2名が拉致され,6月にISILが同中国人2名を殺害したとする犯行声明を発表しました。これに加え,イスラマバード市内にISILの旗が掲示されるなど,ISILの影響が引き続き感じられます。
 一方で,「アンサール・シャリーア・パキスタン(ASP)」という新組織が,カラチ周辺でテロを活発化させましたが,治安機関の一斉取締り等により壊滅したとみられ,テロ事件の犯人の一部に学生等の若者,高学歴者が含まれたことから,若者の「過激化」とローンウルフ型テロの発生という新しい潮流が予測されます。
(統計出典:「パキスタン平和研究所」)


2. 主な組織の動向
(1)パキスタン・タリバーン運動(TTP)
TTPは,旧連邦直轄部族地域(FATA)を含むKP州のローカル・タリバーンの緩やかな連合体として,2007年に結成され,旧FATA南北ワジリスタン管区からKP州スワートまで勢力を拡げ,政府機関等に対する攻撃を繰り返し,一大勢力を形成しました。しかし,パキスタン政府による軍事作戦や米国の無人機攻撃による指導者の相次ぐ殺害により組織上の打撃を被り,指導者選出をめぐる混乱や,政府との対話の是非をめぐる路線対立により分裂傾向に陥りました。
 2014年当初,パキスタン政府はTTPとの対話路線をとることで治安の回復を図る道を模索しましたが,6月のカラチ・ジンナー空港襲撃事件を受け,対話路線を転換して,旧FATA北ワジリスタン管区に対する軍事掃討作戦(ザルベ・アズブ作戦)を開始しました。また,10月からは旧FATAハイバル管区に対する軍事掃討作戦(ハイバル1/ハイバル2作戦)を開始しました。これらの作戦は,旧FATAの武装勢力の掃討に成果を挙げたとされ,TTPは大きな打撃を受けました。現在TTPは,ISILの影響拡大にも直面しており,2015年1月に設立された「ホラーサーン州」は,複数の元TTP司令官が中心となっています。
 一方で,TTPは,治安機関や教育機関・商業施設等ソフトターゲットへの攻撃を行う能力を依然として有していると見られます。パキスタンのテロ対策強化の転機となった2014年末のペシャワールにおける学校襲撃事件は,TTP及びその支部によるものとされ,政府によるテロ対策への報復と見られています。2017年中,TTPは70件のテロ攻撃を行い,186人が死亡,360人が負傷しました。テロ件数で前年比34%減となりましたが,依然としてパキスタン最大の脅威であることは間違いありません。また,2017年中に女性を対象とした広報誌を発刊し,巧妙な組織拡大戦術をとっていることも注目点です。

(2)ISIL
2015年1月には,複数の元TTP司令官を中心に「ホラーサーン州」が形成されました。ISILの浸透は,2017年中の主要な注目事項であり,パキスタン国内で6件(前年3件)のテロ事件を行い,153人が死亡,380人が負傷しました。
 2017年には,シンド州のシーア派聖者廟への自爆テロ(2月),バロチスタン州における連邦上院副議長の車両への自爆テロ及びキリスト教布教活動を行っていたとされる中国人2人の拉致・殺害(5月),クエッタのバロチスタン州警察長官事務所への自爆テロ(6月),クエッタの市場での警察車両への自爆テロ(8月)等の大規模テロが行われ,これらはいずれもISILによるものとみられています。また,2017年11月には首都イスラマバードにおいて,シーア派モスクを襲撃し,情報機関員1名が死亡するという事件も起こすなど,ISILのパキスタンへの浸透・拡大を推測させる事件が続発しました。
 さらに2017年9月にイスラマバードでISILの旗が掲示されたり,同近郊においてISILの落書きが発見されたりと,水面下でISILの信奉者・支持者の拡大を推測させる事例も散見されました。 今後ISILが如何に浸透していくかは,パキスタンのテロ情勢における注目事項と言え,ISILの思想に共鳴したパキスタンの組織又は個人がテロを敢行し,又は支持を表明する動きが強まる可能性も否定できません。また,ISILがシリア・イラク等の中東において支配領域を失う中で,ISILに参加しているパキスタン人戦闘員が帰還し,「ホラーサーン州」に吸収される傾向もあり,治安上の新たな脅威となっています。

(3)スンニ過激派及びカシミール過激派
宗派主義に基づくテロも,パキスタンの治安上の主要課題の一つとされています。最も危険な宗派主義組織とされるラシュカレ・ジャングビ(LeJ)は,これまでに,主としてシーア派コミュニティを対象にテロを繰り返しています。しかし,主要幹部が治安当局に殺害されたことで,組織は打撃を受け,攻撃能力が減少したとされています。
 一方,ラシュカレ・タイバ(LeT),ジェイシェ・ムハンマド(JeM)等カシミール過激派については,主にパキスタン国外(支配地域外)におけるインド権益を攻撃してきましたが,政府がテロ対策に取り組んでいることに反発しての攻撃も懸念されます。

(4)アル・カーイダと「インド亜大陸のアル・カーイダ(AQIS)」
 ウサマ・ビン・ラーディンを始め,幹部多数が米無人機攻撃等によって殺害されるなどした結果,アル・カーイダ(AQ)の能力は衰えたと見られています。その一方で,2014年9月には,ザワヒリ最高指導者が「インド亜大陸のアル・カーイダ(AQIS)」の設立を発表しました。これは,中東におけるISILの勢力拡大及びパキスタン等の地域におけるその影響に危機感を抱いたAQによる組織再興への動きと見られます。同月,カラチ港に隣接するパキスタン海軍関連施設に対する襲撃事件についてAQISが犯行声明を発出しており,今後の活動が懸念されています。

(5)バローチ民族主義諸派
 バロチスタン州においては,政府・治安機関,電気・ガスパイプライン等の施設,中国・パキスタン経済回廊(CPEC)に従事する中国人をはじめとする外国人や他州からの移住者等を狙った攻撃が頻発しています。こうした攻撃の多くは,バローチ民族主義組織によるものと見られます。2017年には,引き続き攻撃が発生する一方で,バローチ解放軍(BLA)やバローチ共和軍(BRA)組織から政府に対して投降する動きが見られました。

3. 誘拐事件の発生状況
 誘拐事件はパキスタン人,外国人を問わず発生しており,2011年8月にはラホールで米国人が,2012年1月にはクエッタで赤十字国際委員会(ICRC)のパキスタン系英国人医師が誘拐され,後者は同4月に遺体で発見されました。2013年3月には,イランのザーヘダーンからバロチスタン州に入りクエッタに向かっていたチェコ人女性2名が誘拐され,2015年3月に解放されました。また2014年5月にはKP州デラ・イスマイル・カーンにおいて中国人観光客1名がTTPに誘拐され,2015年5月には,同人らしき人物が中国政府に助けを求めるビデオ声明が発出され,その後,8月に解放されました。パキスタン人では,2013年5月にムルタンでギラーニ前首相の子息がTTPに誘拐されましたが,2015年7月に解放されました。2018年10月には,パキスタンの各地で誘拐された19名の子供を,人身売買目的で欧州方面に連れ去ろうとしていたグループが当国連邦捜査局によって逮捕され,子供が解放されています。
 犯行主体・目的については,カラチにおいては,ギャング等の犯罪組織が主として身代金目的で行っていると見られますが,KP州及びバロチスタン州ではこうした犯罪組織に加え,掃討作戦によって拠点を追われたTTP等武装勢力が,資金調達や政府当局に拘束されている仲間の釈放を求める手段として行っていると見られます。いずれにせよ,パキスタン人の富裕層や外国人は標的になりやすいと考えられます。

4. 日本人・日本権益に対する脅威
 2018年中,パキスタンにおいては,日本人・日本権益をテロの直接の標的とする具体的な動きは見られていませんが,テロに巻き込まれる可能性や誘拐のターゲットになる可能性は恒常的に存在しています。これまでも,国際テロ組織であるアル・カーイダやISIL関係者を名乗る者が,日本を攻撃対象として名指ししています。2014年には,軍事掃討作戦の開始に伴って,TTPより,航空会社,多国籍企業及び外国人投資家に対して,事業を停止して即座にパキスタンから出国せよとの警告が出されています。こうしたことから,日本人・日本権益についても,攻撃の巻き添えのみならず,直接の標的とされる可能性もあり,引き続き厳重な警戒が必要です。このような情勢を十分に認識して,誘拐,脅迫,テロ等に遭わないよう,また,巻き込まれることがないよう,海外安全情報及び報道等により最新の治安・テロ情勢等の関連情報の入手に努め,日頃から危機管理意識を持つとともに,状況に応じて適切で十分な安全対策を講じるよう心がけてください。

(注記)
 「テロ」については国際的に確立された定義は存在していませんが、一般には、特定の主義主張に基づき、国家等にその受け入れを強要し、又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等をいうものとされています。本情報は、このようないわゆる「テロ」に該当するか否かにかかわらず、外務省が、2018年10月末現在における報道等の情報に基づき、海外に渡航・滞在される邦人の方々の安全確保のための参考資料として編集したものであり、本資料の掲載内容がそのまま外務省の政策的な立場や認識を反映するものではありません。

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