ネパール
テロ・誘拐情勢
更新日 2025年02月07日
1 概況
近年は、マオイスト・チャンド派等、これら反政府組織が関与したとされる爆破、放火、恐喝事件等各種犯罪が散発的に発生しましたが、イスラム過激派(単独犯を含む)等による国際テロ事件は、当地ではこれまで発生していません。しかし、過去にはネパールとインド間のオープン・ボーダーを利用して、インド人テロリストがネパールに逃亡・潜伏していた事例が判明しています。また、インド国境地域には多数のモスクやマドラサ(イスラム神学校)が点在しており、インド人テロリストが、ネパール国内のインド国境付近のムスリムコミュニティ内の協力者から名義貸しを受け、ネパール旅券を取得したことも判明しています。ネパールがテロ企図者の潜伏場所やインド、パキスタン、バングラデシュ等周辺国へのテロ活動の拠点となる可能性もあり、注意が必要です。
マオイスト・チャンド派による誘拐、爆破、放火事件等違法行為は毎年多数発生していましたが、2021年3月に政府との合意により、今後平和的活動を行うことが約束され、現在は、同派による過激な活動は収束しています。しかしながら、和平合意の不履行などに対し、様々な抗議プログラムを行うなどしたほか、爆発物製造事件も発生しており、引き続き同派の活動を注視していく必要があります。
誘拐については、過去にインド人ビジネスマンや中国人が誘拐された事件が確認されており、2022年8月には、カトマンズにおいて、中国人男性が自宅にいるところをネパール人6名に侵入され、拳銃を示して脅されて誘拐され、親族宛に身代金を要求される事件が発生しています。誘拐事件は、一般犯罪としての犯罪グループによる犯行がほとんどで、多くが身代金目的です。
2 各組織の活動状況または各地域の治安情勢
○ ネパール共産党マオイスト・チャンド派
内戦(1996年~2006年)を通じて王制打倒を牽引したネパール統一共産党(マオイスト)が議会主義・現実主義路線に移行した際、これに反発したバイディア派が2012年6月に分離し、その後2014年6月にバイディア派から更にチャンド派に分裂しました。革命の実施による共産党一党独裁体制の確立を目指す一方で、民族自決を尊重した地方分権も求め、現政治体制の解体による国民主体国家システムの樹立等を目指す同派は、ネパール中西部から極西部の山間地を中心にネパール各地で多くの反政府活動を行っていました。この結果、同派は政府から犯罪団体と認定され、いかなる活動も禁止されました。
その後も、このチャンド派を取り締まろうとする政府に反発し、バンダと呼ばれるゼネラルストライキや爆弾の設置、爆破、放火等の暴力行為を頻繁に行いました。
2021年3月の政府との和平合意により、今後平和的活動を行うことが約束され、2023年6月には、ダハル首相(当時)率いるネパール共産党(マイオストセンター)ら3つの政党と合同で「社会主義前線」を結成するなど平和的な活動に移行しており、現在は、同派による暴力的・破壊的活動は収束しています。しかし、和平合意の不履行や政府のインフレ政策などに対し、様々な抗議プログラムを行うなどしたほか、前回総選挙前の2022年11月には同派幹部による爆発物誤爆事件、2024年2月には元メンバーによる爆発物製造事件が発生しており、引き続きその活動を注視していく必要があります。
3 誘拐事件の発生状況
ネパール警察によれば、2024年(ネパール犯罪統計2023-2024)の誘拐事件の発生件数は145件(2023年128件)でしたが、ほとんどが一般犯罪としての犯罪グループによる犯行で、多くが身代金目的です。外国人に対しては、過去にインド人ビジネスマンや中国人が誘拐される事件が確認されており、2022年8月には、カトマンズにおいて、中国人男性が自宅にいるところをネパール人6名に侵入され、拳銃を示して脅されて誘拐され、親族宛に身代金を要求される事件が発生しています。2022年5月の地方選挙期間中には、ルンビニ州東ルクム郡において、マオイストセンターのメンバー 3人が、女性を誘拐して殺害した容疑で逮捕されました。
過去、日本人誘拐事件は発生していませんが、比較的裕福であると思われている日本人が被害に遭う可能性はあるので注意が必要です。
誘拐事件はインドとの国境地域で特に多発する傾向にあり、誘拐犯はターゲットに近い人物から資産状況に関する情報を入手し、事前に綿密な計画を立て、実行しています。
防止策としては、「目立たない」、「用心を怠らない」、「行動を予知されない」ことが重要です。
具体的には、
・資産状況を、安易に他人に漏らさない。
・使用人や運転手の身分調査をしっかりと行い、雇用後も油断しない。
・標的とならないために、なるべく目立たない服装や行動を心掛ける。
・強固な錠前を門やドア、窓等に設置するなど自宅の警備を強化する。
・訪問者(特に見知らぬ者)には自らの安全を確保した上で対応し、少しでも異変を感じたら警察に通報する。
・不審な電話がかかってくる、監視や尾行されていると感じる等の誘拐の前兆があれば、警察に通報する。
・夜間や単独での外出を避け、行き先や帰宅予定時間等をその都度、信頼できる関係者に伝えておく。
・自宅周辺、自宅から又は自宅までの移動時、不審な車が駐車されているなど通常と違う点がないか観察し、注意を怠らない。
・通勤ルート、行動予定をパターン化しない。
などが危機管理上、重要と考えられます。
4 日本人・日本権益に対する脅威
これまでに、ネパールにおいてテロによる日本人の被害は確認されていません。他方、テロによる日本人の被害は、シリアやアフガニスタンといった渡航中止勧告や退避勧告が発出されている国・地域に限りません。テロは、日本人が数多く渡航する欧米やアジアを始めとする世界中で発生しており、これまでもチュニジア、ベルギー、バングラデシュ、スリランカ等においてテロによる日本人の被害が確認されています。
近年は、世界的傾向として、軍基地や政府関連施設だけでなく、警備や監視が手薄で不特定多数が集まる場所を標的としたテロが頻発しています。特に、観光施設周辺、イベント会場、レストラン、ホテル、ショッピングモール、公共交通機関、宗教関連施設等は、テロの標的となりやすく、常に注意が必要です。
また、外国人を標的とした誘拐のリスクも排除されず、注意が必要です。
テロ・誘拐はどこでも起こり得ること、日本人も標的となり得ることを十分に認識し、テロ・誘拐に巻き込まれることがないよう、「たびレジ」、海外安全ホームページ、報道等により最新の治安情報の入手に努め、状況に応じて適切かつ十分な安全対策を講じるよう心掛けてください。