感染症(SARS・鳥インフルエンザ等)関連情報

第1回重症急性呼吸器症候群(SARS)に関する講演会の概要

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飛沫感染と空気感染

飛沫感染と空気感染の違いをもう少し詳しく申し上げますと、いわゆる空気感染は、直径5μ以下で粒子だけになっているものですから、空気の流れに乗ってふわふわ移動します。一番多いものがこのdroplet infection 飛沫感染になりますが、これはウィルスなどの粒子が、例えばくしゃみの小さい鼻水や唾液といったもので回りを包まれれるので、直径5μ以上の大きさでちょっと重いものですから1m前後で地上に落ちてしまいます。

感染経路は、いろいろな病原によって差があります。例えばHIV、C型肝炎、B型肝炎などは血液による接触感染ですから、これさえ避ければ、隣にこういうウィルスを持っている方がいても何らびっくりすることはない。一番多いのが飛沫感染で、様々な病気は飛沫感染という経路をたどると考えればいいと思いますが、空気感染する病気は極めて少ないです。例えば麻疹、水ぼうそう、結核。こういうものが代表的な空気感染です。今回のコロナウィルスは、先ほど申し上げましたような航空機内、マンション、ホテルといったようなところからの広がりをみると、空気感染が否定されているわけではありませんが、多くの感染はどうも飛沫感染のようです。より慎重にする場合には空気感染も疑わなければいけない。けれども、肝心な部分は、この感染をきちんと押さえることになろうかと思います。

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感染症の予防

病院の中で一般的に感染症の予防をするのに、病原体は何であれ、最低限気をつけなければいけないこととして、「標準予防策(Standard Precautions)」という言葉があります。血液、体液、喀痰、尿、便、膿、これは感染するかもしれないものだと思うこと。素手で取り扱ったり、やたらに触らないように、ちゃんときれいに処分するということになりますが、そういうことを意識する必要があります。

それから、手洗いは手袋よりも重要です。手袋は感染を防ぐためには良いものですが、手袋さえすれば万全であるということではなくて、たとえ手袋をした者であっても、手袋を外した後その他を含めて手を洗うことが最も重要な感染症予防の大原則です。

具体的には、院内で、看護師あるいは医師も含めてですけれども、そういう人たちに注意をするときに、最低限スタンダード・プレコーションをやってくださいということを言います。それは、何かを素手で触ったら石けんで手を洗う。極めて簡単なことです。もし、手袋をして、何らかの患者さんの治療が終わった場合に手袋を外しても手を洗う。汚れそうなことが予めわかっているようなときは、エプロン、手袋、それから、目に飛び散るようなことがある場合にはゴーグルをつけましょうということがあります。ふだんのときでも、危ないなと思ったら、こういうものを用意しておく必要があります。特に医療機関ではという意味です。人がいっぱい集まるようなところ、例えば学校のようなところで不明の感染症が起きた場合には、やはり直ちに手を洗う、手袋をつける、あるいは、それに当たる人はエプロンをつけるぐらいのことはふだんから心掛ける必要があります。

それに加えて、それぞれの感染ルートによって、例えば血液の感染であればそれなりの対策、飛沫感染であればそれに対する対策、空気感染であればそれに対する対策といったように、段階を経て行います。したがって、最も基本的なことは標準予防策です。これは一般の方でも十分通用することです。

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インフルエンザの流行期になると、必ず、うがい、マスク、手洗いをするということが出てきます。うがいをすれば喉がきれいになりますし、粘膜がなめらかになりますから微生物が付着しにくくなります。しかし、24時間うがいをしているわけではありません。その間にやられることもありますし、必ずしも万全な方法ではありません。しかし、これはやるにこしたことはない。しかも簡単なことですから、どうぞ気になるならばやってくださいということになろうかと思います。

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マスク

次がマスクについてです。実はマスクにはいろいろな種類があります。ちょっとハンカチを当てるだけでもマスクになるし、ガーゼを何枚か当てたり、最近は花粉用マスク、防塵マスク、いろいろなものが出ております。それぞれによって防ぐものの程度が違います。
 通常のマスクは、かなり粗い粒子、つまり5μ以上の程度であれば、飛沫感染するものをかなり防げますが、ウィルスはナノmの大きさですから、ウィルスそのものをこういったマスクを通して防ぐことは難しくなります。

それから、もしマスクを付けた人が感染源だとすると、マスクをすることによって、くしゃみをしたときに外側に飛び散らない。つまりこれはエチケットとして人に感染させないためにも良いものです。

N95とかN100 といわれるマスクが話題になっております。医療用マスクとして高度なもので、これは 0.1~0.3 μ、コロナウィルスだとちょっとひっかかるくらいの粒子を 100%近くカットできるものがN100 です。N95は、それを95%カットできるということで、かなり信頼度が高いもので、医療関係者にとっては必要なマスクです。

しかし、目が細かいことと、かなりぴたっとつけなければいけないために息苦しさが感じられます。ちょっと外すということでは意味がありません。ですから、これをつけて日常生活を続けることはかなり無理が生じますので、一般の方が心配だからとN95のマスクをつけることは意味がないだろうと申し上げておきます。

その次の段階として、外科手術用マスクがあります。これは、N95よりも少しランクは下がるのですけれども、5μ程度以上の粒子であればかなりストップすることができるということで、これは飛沫感染予防に適当です。したがって、医療機関は必ず外科手術用のマスクを持っているので、例えば疑いがある患者さんが来たときに一番最初につけるのは、N95ではなくて外科手術用のマスクであり、それで様子を見て、大丈夫であれば外すし、疑いが強ければN95にランクアップする形になるのではないかと思います。

防塵マスクは医療用ではないのですけれども、効果としては、ほぼN95並みの効果が期待されるというデータが出ております。これは実際に防塵が目的ですから、本当に微生物が通るか通らないかという実験はたぶんやっていないのではないかと思います。

一般用のマスクですと、粒子を防ぐ効果はありますから、飛沫感染を予防するにはある程度の効果があるということで、これも、やればそれだけ意味があることになります。けれども、決してパーフェクトなものではありません。しかし、かかるかかからないかわからない段階で、実用的には不向きな、しかも医療専用のマスクを皆さんが使うというのは極めて実際的ではなくて、車がいいからみんながベンツを買いたいということと同じような発想ではないかと思います。私は時々怒られるのですけれども、最高級のものを使う必要は、通常の予防策ではありません。

我が国でも、患者さんが増えてくると心配される方が多くなるので、マスクをつける方も当然増えてくると思いますけれども、一方で、これは決してパーフェクトではないわけです。ある程度の防御効果はあるということで、つけないよりはつけたほうが、当然、それなりの意味があります。しかし、マスクだけをやっておけば万全ということではないですから、一般的な感染予防が日常生活の中でも重要で、清潔な暮らしを心掛けるということは日常重要なことであります。

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手洗い

手を洗うということですけれども、微生物が手について、手を通してから体内に入るということは、飛沫感染であろうが、皮膜感染であろうが、起きることです。例えば、私が普通の風邪でくしゃみをしたときに手で押さえて、後でだれかと握手をすれば、その手を伝ってウィルスは行くわけですから、やはりその前の段階では手を洗うということは、感染予防としても極めて重要になります。年がら年中手を洗うというわけにはいきませんけれども、何かしらのときにはきちんと手を洗うことが感染予防の基本的な対策です。

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病気の届出のシステム

病気の届出のシステムを簡単にご紹介しておきます。そういう病気の疑いがある場合には、保健所に医師が届けて、それが都道府県に届き、そして国と私たちの情報センターに来るということが、日常の感染症の届出システムです。

一般的な検査、例えばレントゲンを撮ったり、血液の白血球の数とかは当然普通の医療機関で行われます。あるいは、その他の病気、例えば肺炎という病気の原因については医療機関でやります。しかし、現在可能性が高いと言われているコロナウィルスについては、私たちの研究所で行っています。

現在、整備しつつあるのは、コロナウィルスの検査法がもう少し信頼度が高いものになってきた場合には、各地に地方衛生研究所というものがありますが、そういったところで検査が可能になるということを進めております。


 これが今のところのSARSの報告の基準です。2月以降、38度以上の熱をだした方で、咳と呼吸困難、そういった呼吸器症状を起こした方。しかし、これは、肺炎あるいは風邪でも起きることで、それをもう少し絞り込み、SARSが発生した地域へ旅行した方、あるいは、そういった患者さんと密接な接触があった方、この方が疑い患者ということになります。さらに、レントゲンを撮って肺炎の影があれば可能性例となります。国内では、明らかにSARSと思われる方は今のところはおられないようです。

これでいきますと、例えば1月に香港へ行って風邪をひいたけど心配だという場合はSARSを心配する必要はないわけで、その辺は冷静に見ていく必要があろうかと思います。

もう一つは、潜伏期間が大体10日以内と区切ってほぼいいようですので、SARSとの接触が考えられたとしても10日を過ぎている方は、不安になる必要はないと思います。

それから、こういった疑いを持たれた方であれば、やはりレントゲンを撮る必要があると思います。さらにレントゲンで肺映像が出てきた場合には、今の段階ではやはり入院していただいたほうが無難です。もちろん、他の原因による肺炎も大いにまぎれている可能性もあるわけですが、その辺についての区別をする診断をすすめていく必要があります。

世界的な発生状況ですけれども、お手元の資料の2枚目に累積感染症例推移というものがあります。累積ですから合計の患者さんですので、当然増えていく状況にはありますが、3月末あたりになって急激に患者数が増えたのは、中国が昨年11月からの患者さんの数を加えたためです。全体としてはもちろん上昇傾向にはありますが、爆発的に患者さんが急増しているということとは意味合いが違います。

私達は、そういったところの情報を早く集めるようにしておりまして、その結果は感染症情報センターのホームページを使って情報提供しています。一般の方々へのわかりやすい言葉ということまでには至っておりませんけれども、WHOからの情報など重要なものは、英語だけではわかりにくいということで、翻訳して、少なくとも医療関係者あるいはそういうことに関心を持って見ていただける方にはわかりやすい情報として載せてあります。URLは、http://idsc.mih.go.jp/index-j.html別ウインドウが開きますです。

以上、話はあちこちに飛びましたけれども、私どもから見たSARSご紹介です。あとは、ご質問に対して、わかる範囲でお答えしたいと思います。

どうもありがとうございました。(拍手)

司会:岡部先生、どうもありがとうございました。

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