(1)緊急用品の準備をする  
   
CBRNテロの被害にあった場合、攻撃された場所から速やかに避難することが常に有効です。その一方で、医師の手当を受けるまでに必要な応急処置をしておかなければなりません。また、直接の被害にあわなくても、テロの規模が大きい場合には、自分の住居で危険が去るまで待機したり、より安全な場所に避難せざるを得ない場合もあります。
そのような事態に備え、大規模な自然災害の場合と同様に、緊急用品を入れた「非常袋」を用意しておくとよいでしょう。用意すべきものは、滞在している国によって多少異なるかもしれませんが、基本的には以下のとおりです。
   
●マスク
CBRNテロの多くは、有害な化学物質や細菌・ウイルスを何らかの形で空気中に散布させることで行われると考えられています。有害な化学物質は、肺や皮膚に取り込まれることによって重大な症状が現れ、細菌・ウイルスも呼吸や傷口等を通じて体内に取り込まれることで発症します。放射性物質の場合も体内に取り込まれて被曝するとより危険なものとなります。
市販のマスクには、単なる布のマスクから、一部の有害な化学物質を防ぐ本格的な防護マスクまで様々なものがあり、また国によって購入可能なものも異なるので、どこまで用意すべきかは各人の置かれた状況に応じてよく検討すべきです。
外出中など予測しない状況でCBRNテロに遭遇した場合、何もしないでいるよりは、布やティッシュなど何かしらのもので口と鼻を覆い、少しでも有害物質を取り込むリスクを低減させることが大切です。
   
●ガムテープとビニールシート
大規模なCBRNテロが発生し、自分の住居で危険が去るまで待機しなければならないような場合、屋外から有害物質や細菌・ウイルスが屋内に侵入するのを少しでも食い止めるために、ガムテープとビニールシートを活用することができます。非常袋を持ってできるだけ窓やドアの少ない部屋に避難し、ガムテープやビニールシートで窓やドアをすっかり覆ってしまうことで、汚染された空気に接触する危険を減らすことができます。
   
●はさみと石けん
CBRNテロにおいては、直接被害に遭遇すること以外にも、有害物質や細菌・ウイルスに汚染された人や衣服が移動することで他の人に被害を及ぼす二次被害の危険があります(地下鉄サリン事件でも、医療関係者が二次被害を受けています)。
汚染や感染を最小限に留めるためには、身に付けている衣服を速やかに処分する必要がありますが、特に頭からかぶる服を着ている場合には、はさみを使用して衣服を切り裂き、露出している皮膚に衣服の汚染された部分を触れさせないことが大切です。その後、石けんを使用して身体を洗うことで皮膚から汚染物質を吸収する可能性を大幅に減少させることができます。
※医薬品の準備は必要か?
CBRNテロによる被害に対応する解毒剤や治療薬が存在する場合もありますが、いわゆる市販薬とは限りません。緊急事態でまず行うべきことは、可能な応急処置(汚染物質の洗浄など)をした上で、速やかに医師の診察・治療を受けることです。
   
(2)緊急事態に備えた計画を立てる  
   
CBRNテロの緊急事態時に何が起こるか予測することは極めて困難です。緊急事態が発生した時に備えて、以下の点を改めて確認しておきましょう。
また、噂や流言に惑わされずに的確な判断と行動を行うためには、正確な情報源(どこから必要な情報がもたらされるのか、どこに行けば治療を受けられるのかなど)を普段から確認しておくことが大切です。それ以外にも、現地の医療機関や災害発生時に必要な情報を提供する機関(警察当局など。国によっては、緊急事態に専門に対処する部署もあります(米国のFEMAなど))を把握しておきましょう。
   
●家族間の連絡手段の確認
緊急事態時には、家族全員が同じ場所にいるとは限りません。その上、電話に限らず各種の通信手段が普段のようには使えなくなる可能性があります。そのため滞在している国の通信事情を普段からよく把握して、緊急事態が発生した場合にどのように連絡をとり合うのかよく相談しておくことが大切です。
   
●職場や学校側の対応方針の確認
家族それぞれが多くの時間を費やす場所(職場や学校など)では、緊急事態時に備えてどのような準備を行っているのか、また、実際に緊急事態が発生した際にどのような対応を行うのか把握しておきましょう。
   
(3)CBRNテロに遭遇したら  
   
●直接被害に遭遇している恐れがある場合には(詳細はCBRNテロ対策の各論をご覧下さい。)、まず、有害物質と接触しないように努めることが大切です。マスク等を持ち合わせていなくても特に口と鼻から有害物質を吸引しないよう、布(Tシャツなど)やティッシュペーパーを重ねて口と鼻を覆い、これを通して呼吸するようにして下さい。また、子供がいたら、不用意に外気を吸い込まないよう手当てをしてやることが必要です。CBRNテロに使用される多くの物質は空気よりも重く、地面に近いところに留まる傾向にあり、そのような物質が使用されたテロ攻撃の場合には、高いところにいればいるほど安全であると言われています。
   
●噂や流言に惑わされることのないよう正確な情報収集(日本国大使館・総領事館への照会、現地医療当局への照会、テレビ、ラジオ、インターネット等で流される情報など)により事態を把握します。特に現地当局がどのような指示・助言を行っているのか把握することが大切です。その上で、緊急事態に備えた計画を念頭に、住居で待機するのか、より安全な場所に避難するのかを含め、臨機応変に対応策を考えていくことが大切です。