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パキスタン
テロ・誘拐情勢

更新日 2023年09月20日

1 概況
 パキスタンにおける2022年中のテロ発生件数は262件であり、2年連続増加となりました(昨年比+27%)。各州における発生状況は、KP州が169件(前年比+58件)、バロチスタン州が79件(前年比-2件)、シンド州が2件(前年比-6件)、パンジャーブ州が3件(前年比-2件)、イスラマバードが2件(前年同)でした。パキスタン最大都市であるシンド州カラチでは、6件(前年比+1件)でした。ギルギルット・バルチタン地域(以下「GB」)は1件(昨年比+1件)でした。パキスタンの安全保障と治安は、西方の隣国アフガニスタンの情勢と密接に関連しています。同国の反政府武装勢力タリバーンが各県都に向けて大規模攻勢をかけ、攻略を開始し始めた2021年7月以降、パキスタンでも同国との国境地域でパキスタン・タリバーン(TTP)やバローチ分離主義勢力によるテロ件数が増加傾向を示しました。また、2022年11月にTTPが政府との停戦合意を破棄し、全土で攻撃を開始すると宣言して以降、TTPは治安部隊等に対するテロ攻撃を激化させており、特にハイバル・パフトゥンハー州(旧連邦直轄部族地域(FATA)含む。以下、「KP州」)でテロが増加しました。
 軍・政府機関のみならず、中パ経済回廊(CPEC)関連事業の従事者などのソフトターゲットを攻撃対象とするテロ事件も発生しており、また、たとえ攻撃対象でなくとも、攻撃の巻き添えとなって被害に遭う懸念もあり、中国人等と比較して脅威の度合いは低いものの、邦人を含むその他の外国人や外国権益へのテロの脅威は依然として存在すると言えます。
 誘拐事件については、パキスタン人を対象としたものがほとんどです。銃を用いた脅迫による強盗や誘拐、また、誘拐後に殺害されて発見される事件が頻繁に発生していることから、引き続き注意する必要があります。

2 各組織の活動状況または各地域の治安情勢
(1)パキスタンのタリバーン過激派勢力(パシュトゥーン系ミリタント)
  ア TTP
    TTPは、部族地域(旧FATA)及びKP州の地元武装勢力の緩やかな連合体として、2007年末に結成されました。南北ワジリスタンから一時はKP州スワート(Swat)まで勢力を拡げ、政府機関等に対する攻撃を繰り返し、国内ミリタントの最大勢力を形成しました。2014年の軍事作戦によって旧FATAから主力が掃討されたTTPは組織勢力の衰退が数年間は顕著でしたが、近年、次第に勢力を回復しており、依然としてパキスタンにおける最大のテロ勢力です。この最大の要因は、2020年8月にヒズブル・アハラール(Hizbur Ahrar)とジャマートゥル・アハラール(Jamaat-ul Ahrar)との再統合やその他の組織との合流が実現し、攻撃力及び作戦遂行能力が強化されたことにあります。2022年中、TTPは89件(前年比+2件)のテロに関与しました。これらの攻撃により、135人が死亡(前年比-23人)し、120人が負傷しました。89件のテロについては、81件がKP州、4件がバロチスタン州、パンジャーブ州及びイスラマバードで計3件、カラチで1件発生しました。また、アフガニスタン側からの越境攻撃のほとんどがTTPの犯行でした。2022年にTTPが行った攻撃のほとんどはKP州の旧FATAでの発生でしたが、バロチスタン州やパンジャーブ州及びイスラマバードにおいてもテロを敢行しその存在感を示しました。
  イ ローカル・タリバーン
    部族地域を含めKP州には複数の小規模過激派グループが存在します。TTPや他のパキスタン・タリバーン・グループとイデオロギーを共有していますが、そのほとんどは独立して活動する別働隊的な存在です。2022年中、これらのグループは38件(前年比+16件)のテロを敢行し、30人が死亡しました。ローカル・タリバーンは、KP州においてポリオワーカー、治安部隊、政治指導者及び部族民等を標的とした攻撃を行っています。
(2)イスラム国(Islamic State(以下、「IS」)関連組織
   IS-K(イスラム国ホラサン州)は2022年中、23件のテロ(KP州21件、バロチスタン州2件)を敢行しました。これらのテロで92人が死亡し、222人が負傷しました。これらの死傷者のほとんどは、ペシャワールのシーア派モスクにおいてIS-Kが行った自爆テロによるものでした。KP州では、ペシャワールで8回、バジョール(Bajaur)で9回、カイバル(Khyber)、オルカザ(Orkzai)、タンク(Tank)及び南ワジリスタンでそれぞれ1件テロが敢行されました。攻撃対象は治安機関やシーア派モスク、政党指導者、シーク教徒、部族の長老等でした。
(3)アル・カーイダ(AQ)
   近年同様、2022年中、インド亜大陸のアル・カーイダ(AQIS)はパキスタンでテロを敢行しませんでした。AQはパキスタン及びアフガニスタンにおいて存在感を持ち続けており、同盟関係にある地元組織も存在します。アフガン・タリバーンとの関係は維持されており、TTPの再統合や勢力増加に大きく寄与したと言われています。アフガニスタンから米軍が撤退した後、AQはタリバーンやパキスタンのタリバーン過激派勢力との強固な関係を頼りに、アフガニスタン・パキスタン地域への復活を計画していたとも言われています。
(4)「ラシュカレ・ジャングヴィー」(Lashkar-e-Jhangvi: LeJ)
   スンニ過激派組織シパーヘ・サハーバから分派した最強硬派であり、パキスタンにおいて最も危険なスンニ過激組織とされています。2001年8月14日に非合法化されました。これまでにとしてシーア派コミュニティを対象にテロを繰り返していましたが、2015年から2016年に相次いだ治安当局による主要幹部の殺害や拘束で組織は打撃を受けました。
(5)「シパーヘ・ムハンマド・パキスタン」(Sipah-e-Muhammad Pakistan、以下、「SMP」)
    シーア過激派組織です。過去20年間で、同組織はシパーヘ・サハーバ・パキスタン(Sipah-e-Sahaba Pakistan)の活動家、ジャマーテ・イスラミ(Jamaat-i-Islami)、聖職者、スンニ派マドラサの学生、そしてビジネスマンを標的としてきました。
(6)分離独立主義グループ
  ア バローチ分離主義勢力
    2022年にバロチスタン州で発生したテロは、バロチスタン解放軍(Balochistan Liberation Army、以下「BLA」)及びバロチスタン解放戦線(Balochistan Liberation Front、以下「BLF))の2大グループが、そのほとんどを実行しました。
  (ア) BLA
      2022年中、BLAは46件(前年比+12件)のテロを敢行しました。45件はバロチスタン州、1件はカラチで行われました。これらの攻撃により65人(治安機関員30人、民間人15人、過激派構成員20人)が死亡しました。BLAによる攻撃は、バロチスタン州の17地区にまで広がり、より頻繁に攻撃が行われました。BLAによる攻撃の対象は、61パーセント以上が治安機関でした。そのほかには、政府関係者等が標的とされました。
  (イ) BLF
      2022年中、BLFは7件(前年比-18件)のテロを敢行しました。これらの攻撃で14人(治安機関員11人、民間人2人、武装勢力1人)が死亡し、16人が負傷した。そのほとんどが治安機関を標的としたものであり、そのほかには非バローチ族も被害に遭いました。
  (ウ) バロチスタン共和軍(Baloch Republican Army、以下「BRA))
      BRAは、2022年中4件(前年同)のテロを敢行しました。これらのテロで5人が死亡、8人が負傷しました。攻撃対象は治安機関、医療関係施設でした。
  イ シンド分離主義勢力
    シンド国革命軍(Sindhudesh Revolutionary Army、以下「SRA」)がシンド州においてテロを3件(1人死亡、7人負傷)敢行しました。標的は治安機関、鉄道及び送電線でした。バローチ分離主義勢力とシンド分離主義勢力の間でオペレーション実行上の結びつきが強くなっていると言われ、SRAは主にBLAとBRAとの連携を強めています。

3 誘拐事件の発生状況
 パキスタンにおける誘拐事件はパキスタン人対象のものがほとんどですが、過去には外国籍の旅行者が被害者となる誘拐事件が発生しています。
 また、銃を用いた脅迫による強盗や誘拐未遂事件、誘拐後に殺害される事件が頻繁に発生していることから、継続して警戒する必要があります。
 当地では、過去に犯罪組織が誘拐した人質をテロ組織に売り渡すケースもあったほか、資金獲得手段としてテロ組織自らパキスタン人の富裕層や外国人を誘拐する事例も発生しています。この場合、身代金の他にパキスタン政府に拘束されている仲間の釈放を要求することも散見され、事態の長期化・複雑化を余儀なくされています。

4 日本人・日本権益に対する脅威
 テロの件数は2年連続増加となりました。攻撃対象の多くは、軍・治安機関関係者であるものの、依然としてソフトターゲットに対する攻撃が一定頻度で発生しています。そのため、当地外交団において、家族の帯同や居住地域を制限している例が少なからず見受けられます。 
 2021年4月、クエッタ所在のセレナホテルにおけるテロでは、発生時にホテル敷地内にいなかったとはいえ、発生日に駐パキスタン・中国大使が滞在しており、また同年7月、KP州コーヒスタン郡ダースーにおけるダムプロジェクトにおいて、中国人作業員多数が乗車したバスがIEDによる攻撃を受け死傷者を出すなど、近年中国人に対する襲撃が散発的に発生しています。特に、同ダム建設プロジェクトには日本企業がコンサルタントとして参加しており、数人の邦人職員が現地に駐在していたことから、邦人が巻き添えとなる最悪の事態も懸念されたところでした。
 パキスタン国内過激派が、軍・政府機関のみならずソフトターゲットをも攻撃対象としていることは否定できず、攻撃対象でなくとも、攻撃の巻き添えとなって被害に遭う懸念もあり、中国人等と比較して脅威の度合いは低いものの、邦人を含むその他の外国人や外国権益へのテロの脅威は依然として存在すると言えます。
 テロはどこでも起こり得ること、日本人も標的となり得ることを十分に認識し、テロの被害に遭わないよう、海外安全ホームページや報道等により最新の治安情報の入手に努め、状況に応じて適切で十分な安全対策を講じるよう心掛けてください。

テロについて

「テロ」について国際的に確立された定義は存在しませんが、一般には、特定の主義主張に基づき、国家等にその受け入れを強要する又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等を指すとされています。本情報は、このようないわゆる「テロ」に該当するか否かにかかわらず、外務省が報道等の情報に基づいて、海外に渡航・滞在される邦人の方々の安全確保のための参考として編集したものであり、本情報の内容がそのまま外務省の政策的な立場や認識を反映するものではありません。
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