セミナー・シンポジウム報告

「危機管理リレー・セミナー」(仙台)の開催について

  1. 外務省では、11月5日、海外進出企業の危機管理担当者等を対象とした「危機管理リレー・セミナー」を仙台にて開催しました。
  2. 海外におけるテロの脅威への関心が高まる中で、海外に渡航・滞在する日本人、日本企業にとって、テロから身を守るための方策を講じることが益々重要となっていることから、テロ関連情報及びテロ対策に関する情報の提供や啓発活動の一環として、平成6年以来、本セミナーを毎年日本国内各地で開催してきています。
  3. 今回ご紹介する仙台でのセミナーは「海外でのテロ事件と危機管理」と題し、(株)オオコシ セキュリティ コンサルタンツの大越代表取締役社長、三井物産(株)の中村前安全対策室長、外務省領事局の伊藤海外安全相談センター室長を講演者として、当省と東北経済連合会等の共催にて開催し、60名以上の方にご参加頂きました。
本文目次
  1. 個別発表
    (1)
    伊藤外務省領事局海外安全相談センター室長
    (2)
    大越(株)オオコシ セキュリティ コンサルタンツ代表取締役社長
    (3)
    中村前三井物産(株)安全対策室長
  2. 講演者略歴
広報資料
  1. 個別発表
    (1)伊藤領事局海外安全相談センター室長
    (イ)テロの特徴

    海外における危機全体からはテロに遭遇する可能性は低い。しかし、テロを予測することは難しく、また、誘拐など長期的な対応を要するケースもある。更にテロの被害に遭った場合、その損害は甚大であり、企業の社会的信用、事業継続に多大な影響を及ぼすこととなる。

    (ロ)世界のテロの現状

    9.11米国同時多発テロ事件以降、アル・カーイダが台頭し、世界各地で暗躍していることが明るみになった。また、2003年10月18日のビン・ラーディンによると見られる声明が発出されて以後、各種声明において日本がテロの標的の一つとして言及されている。

    各国政府は対アル・カーイダを中心に、テロ組織掃討作戦、テロ組織への資金の流れを断つための条約締結等のテロ対策を強化しており、一定の成果を上げてはいる。しかし、テロ組織も生き延びていくために進化しており、世界的なネットワークの構築(イスラム過激派の分散化、IT等を活用したテロリスト間のネットワーキング等)、標的のソフト指向(ショッピングモール、公共交通機関、学校等比較的容易な標的への攻撃)、形態の多様化(銃撃、政治目的の民間人誘拐、CBRNテロ、海上テロ等)、攻撃手法の巧妙・洗練化、効果的な時期を選んだテロ攻撃(選挙前、各種記念日、オリンピック、ラマダン等多くの人が集まり社会的に注目を集める時期)等を行い変化を遂げながら活動を継続している。また、政治対立、宗教対立等に根ざすテロも引き続き存在する。

    (ハ) 対策

    標的の無差別化等により「巻き込まれ被害」の可能性がある。同被害に遭わないためには、危険な場所には近づかず、また、危険な時期を避けることが重要であり、そのためには、日頃より、現地におけるテロ組織の主な標的、政治・社会情勢等について継続的に情報収集を行うことが必要である。

    予防策としてはテロリストに隙(脆弱性)を見せないことが重要であり、事務所・住居等の警備強化、行動の三原則として、目立たない、行動を予知されない、用心を怠らない等の対応策を講じる。また、マニュアルの策定、連絡先の把握等被害に遭遇した場合に備えて事前準備を行うことが肝要である。

    各組織内において、危機管理に対する意識強化を図ることが重要であり、トップと危機管理部門の意識向上、職員全体が意識を共有するよう啓発・指導を行う。また、リゾート地等休暇・観光で滞在することが考えられる場所でテロが発生した場合のことも想定して、海外勤務者に対し、プライベート時においても、行き先の渡航情報の確認等を行うよう指導する。

    外務省では、海外安全ホームページなどを通じた海外安全情報の提供の他、海外在留邦人及び国内での海外進出企業等との連携を通じ、安全確保のための支援を行っているので、是非これを活用して頂きたい。 最後に、海外安全・危機管理のためには、「意識と知識」が重要である。

    (2)大越(株)オオコシ セキュリティ コンサルタンツ代表取締役社長
    (イ)誘拐の現状

    誘拐について、9.11米国同時多発テロ事件以降、アジア地域に滞在している欧米人は危機管理意識が高まっており、安全対策を強化している。日本に滞在している欧米人でさえ、危険を感じているほどである。その反面、日本人は今までと同じ感覚で、自分だけは平気だと考えている場合が多く、その結果、日本人がソフト・ターゲットとして誘拐組織に狙われる可能性が高まっている。

    (ロ)誘拐対策

    誘拐の85%が、朝の出勤時又は(子供の場合)登校時に一般の公道で発生している。逆に言えば、その時間さえ気を付けていれば誘拐の85%は防げるので、通勤経路、時間等を変えるなど定型的な行動をしないことが肝要である。日本の駐在員は赴任後に誘拐組織によって誘拐対象としてリストアップされていると考えた方がよい。誘拐組織は、短くて1週間、長くて6ヶ月間ぐらいターゲットを監視し、常に定型的な行動をするなど狙いやすい者を誘拐のターゲットにする。ターゲットは他にも多数いるので、ターゲット・リストから抹消されるような行動を心がけることが重要である。また、不審な車がいたら写真を撮る、ナンバーを控える等、誘拐の兆候等があった場合、何らかのリアクションを、相手にわかるように取ることが大事である。

    (ハ)誘拐事件発生後の対応

    海外の警察は犯罪に荷担している可能性もあるので注意を要する。従って、誘拐事件発生後、現地警察に通報する際には、信頼できる人を通じて行う必要がある。事件の対応は現地対策本部で行い、高度な判断を要する場合に限って本社で行う。海外での危機管理として、マニュアルの作成、社員・家族の安全教育及び訓練、会社施設・住宅の防犯体制の強化等普段からの備えが危機対応の成否を左右する。

    (3)中村前三井物産(株)安全対策室長
    (イ)安全対策室

    日本の企業で危機管理等を行うための安全対策室を設けているのは20社ぐらいである。その中で専任は半分、残りの半分は総務課、人事課等との兼任である。当社の安全対策室は、1988年に設立された。

    (ロ)安全対策室の業務

    予防として、駐在員、夫人等を対象に赴任前研修を実施している。また、現地事業所に出張し、現地日本大使館・総領事館等から最新情報を得た上で、現地の社員に対して安全対策について説明する。社員に対しては、(例えば危険な都市については)日本からの出張者等の夕食に同行することは構わないが、その場合でも、一軒で止めるようにと指導している。夜7時から夕食が始まり、一軒で終われば夜9時頃には家に帰れるが、2軒、3軒と続くと深夜になり、事件等に巻き込まれてしまう可能性が高くなる。

    有事の際に、昼夜を問わず、15分以内に最高責任者に連絡できる体制作りが必要である。幹部は常に社員のことを心配しているので、海外への迅速な安否確認、幹部への迅速な報告を励行することが重要である。当社では、例え会議中であっても、担当役員が報告を受けられるような体制を構築している。自分の経験から、当社の社員が事件・事故に巻き込まれていないからとの理由で幹部への連絡を翌朝にして、幹部からは夜中も待っていたと注意されたことはあった。一方夜中の3時、4時であっても安否確認を報告して注意されたことはない。

    (ハ)リスク管理と危機管理

    自分の理解では、リスク管理とは、事件・事故に遭わないようにするための事前の予防から、実際に事件等が発生した際の対応方法等まで全てを含んでいる。危機管理は、事故や事件発生後の対応方法等を事前に準備することであり、リスク管理と危機管理は包含関係にある。

    (ニ)ホテルに対する爆弾テロ

    爆弾テロについては「10」、「100」、「1,000」と覚えていただきたい。「10kg」の爆弾であればアタッシュケースに入れることができ、電車等を爆破する威力がある。「50~100kg」の爆弾であれば、乗用車等に積みホテルのレセプション等に突入して損傷させることができる。また、「500~1,000kg」爆弾であれば、トラック等に積載する必要があり、リヤドのコンパウンドで発生した爆弾テロは同規模の爆発であった。

    一般的に米系のホテルはテロ攻撃の対象として狙われる可能性が高いと言われている。しかし、安全対策をしっかりと講じていない安価なホテルに宿泊した場合、物が盗まれたり等別の心配がある。ホテル全体を損傷させるためには、1トンの爆弾を積んだトラックがホテルの中にまで入り込み、爆弾を爆発させる必要がある。安全対策がしっかりしたホテルであれば、ブロック等の障害物により建物の中まで入ることが出来ない。車両爆弾テロがあったとしても、レセプションがある場所の周辺が損傷するのみで、各部屋までが大きな被害を受ける可能性は低い。従って、必ずしも米系ホテルが全て危険というわけではなく、安全対策がしっかりしているホテルであれば、レセプションに長居せず、できるだけ部屋に居るようにすればテロの被害に遭う可能性は低くなる。

  2. 講演者略歴
    • 伊藤 光子(いとう みつこ)
    • 外務省領事局海外安全相談センター室長
      1974年
      上智大学卒
      1976年
      ロンドン大学大学院修了
      1981年
      外務省入省
      国際連合局経済課
      1987年
      在マレーシア日本国大使館
      1991年
      経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部(パリ)
      1994年
      国際社会協力部人権難民課
      1998年
      国際社会協力部国際機関人事センター所長
      2003年
      現職
    • 大越 修(おおこし おさむ)
    • 株式会社オオコシ セキュリティ コンサルタンツ代表取締役社長
      1968年
      中央大学法学部(法律)卒
      1963年
      警視庁警察官(1982年4月~85年3月の間、外務省に出向、ニューヨーク総領事館の領事)
      1987年
      エッソ石油セキュリティ部部長、ECI(Exxon Company International)シニアセキュリティアドバイザー
      1999年
      JPモルガン銀行 セキュリティ部部長
      2001年
      AIG KK リージョナルセキュリティマネージャー(日本韓国担当)
      ※AIGは2004年9月末で退職
      2003年
      現職
    • 中村 常保(なかむら つねやす)
    • 三井物産株式会社安全対策室
      1970年
      三井物産(株) 大阪支店 入社
      1999年
      安全対策室長
      2004年
      安全対策室

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