感染症(SARS・鳥インフルエンザ等)関連情報

第1回重症急性呼吸器症候群(SARS)に関する講演会の概要

平成15年4月11日
領事移住部政策課

11日、SARSに関し、海外進出企業を対象に、岡部国立感染研究所感染症情報センター長による講演会を実施したところ、概要以下のとおり(参加者約200名)。

  1. 全体概要
    (1)
    始めに三好政策課長から、SARSの現状及び危険情報の発出や在留邦人支援等当省がとった措置等について説明した後、岡部所長から、香港での発症例に基づいたSARSの臨床的特徴、病原、感染経路、予防策等について医学的観点から講演を行った。
    (2)
    参加者の殆どは香港、中国広東省をはじめとするSARSが拡大している地域に進出している企業関係者であり、その多くからSARSに感染しているかどうか判明しない段階での自宅待機の妥当性及び予防方法等について質問があったほか、現在発出している危険情報の引き上げ・対象地域拡大(北京、上海等)の検討状況及び判断基準等について質問があった。
  2. 岡部所長による講演
    (1)臨床的特徴(香港での発症例より)
    年齢層は25~70歳までの健常人であり、15歳未満の小児の症例はごく少数である。潜伏期間は一部10日以上見られるケースもあるが通常2~7日である。
    症状としては、38度を超える高熱にはじまり、悪寒、戦慄、頭痛、全身倦怠等のインフルエンザに類似した発疹や神経学的症状が見られ、消化器症状などは見られない。発症後3~7日間で、乾性咳、呼吸困難、低酸素血症が見られるようになる。
    致死率は3~4%前後(エボラ出血熱や天然痘は50~70%、麻疹は0.1~0.2%)で、患者の約90%は6~7日目頃に回復することから、決して致死的な病気ではない。
    (2)病原
    人の鼻風邪やブタ胃腸炎、ニワトリ胃腸炎、マウス肝炎等の原因となるコロナウィルス乃至その新種ではないかとの説が有力である。
    (3)感染経路
    当初香港の病院関係者を中心に拡大したことから感染者の近くに密接した場合に感染すると考えられていたが、その後アモイ・ガーデンの同階住居者間や飛行機内での感染例もあることから、必ずしも密接した場合でなくても感染するのではないかとも考えられる。
    (4)予防策
    感染経路がなんであれ、最低限気を付けることとして標準予防策をとる必要がある。つまり、血液、痰、便、尿、体液や咳は感染の可能性があるとの前提に、手洗い(接触感染予防に効果が高い)・うがい(のどの粘膜を滑らかにすることによって感染症の原因となる細菌・ウィルス等の微生物が付着しにくくなる)をすること。
    また、100%予防効果があるわけではないがマスクをすることによって粗い粒子(5micron以上)であれば防ぐことができる(ウィルス(nanometre級)そのものは防げない)。但し、今話題になっているN100やN95は医療関係者用であり、日常生活においては息苦しくて実践的でない。
  3. 質疑応答(括弧内は特記ない限り岡部センター長の応答。)
    (1)
    患者の約90%が回復の方向に向かうとあるが、薬がないのに何故回復するのか?
    (ウィルス感染は通常体内の免疫力や抵抗力によって自然治癒するものである。)
    (2)
    発症前(キャリア)の人から感染する可能性はあるのか?
    (B型肝炎のようにウィルスを持っているのに症状が出てない人から感染するということはあることから、可能性がないとは言えない。)
    (3)
    発症前でも感染する可能性があるということだが、感染しているかどうか判明しない段階で自宅待機させるべきか?
    (症状のない人に制限を設けることはできないが、目安として10日間休ませて様子を見るのが安全である。)
    (4)
    北京でも感染者・死亡者が出ているが、危険情報は発出しないのか?
    (今後発出する可能性もあるが、WHOの情報や域内感染が新たに見られるかどうか、また在外公館からの情報等を踏まえ検討することとなる(三好政策課長)。)
    (5)
    SARSに一度罹ると二度と罹らないのか?
    (インフルエンザは何度も罹る。一方、麻疹の免疫は長くもつので一度罹るとその後長い間罹ることはない。コロナウィルスについては、少なくとも免疫はできるがその免疫が一生もつとの断定はできない。)
    (6)
    感染者がでた場所等を消毒しているとの報道があるが、消毒の効果はあるのか?
    (仮にウィルスがコロナウィルスであるとしたら、コロナウィルスはアルコールに弱いので、普通の消毒でかなりの効果があると考える。)
    (7)
    生鮮食料品等のモノの感染の可能性はあるのか?
    (現段階ではデータがないことから何とも言えない。)
    (8)
    海外の工場で従業員が発病したらどういう対策をとったらいいのか(工場の閉鎖をする必要はあるのか)?
    (具合の悪い人は受診をするよう勧めるべきである。また、工場の閉鎖といった判断は医学的、経営的、行政的判断が要請されるので答えられない。)
    (9)
    現地に対してはマスク、うがい、手洗いの徹底等の指示は出しているが、それ以外には対策はないのか?
    (ワクチン等がない以上うがい、手洗い、マスクといった標準予防対策をとることが重要である。)
    (10)
    在香港総領事館に9,000枚のマスクを送付したとあるが、民間企業関係者も貰えるのか、また、マスクの型は何か?
    (日本人商工会議所等を通じて手に入ることになると思う。また、本社の方からも現地に送付することを勧める。マスクはN95が国内生産が追いつかないことから入手不可能でN95と同等の効果があるものを送った(三好政策課長)。)
    (11)
    累積症例数の見通し如何?
    (増減には山があるが、山が続くと更に拡大する可能性があるので、次の山、その次の山があるのか注視していきたい。)
    (12)
    SARSであることが判る検定キットがあると聞いたが、検疫所等に配置しないのか?
    (本キットはまだ開発されたばかりであり、診断上の参考とはなるが、陰性と出た場合の信頼度が低い。)
    (13)
    SARSのウィルスが仮にコロナウィルスとし飛沫感染するとした場合、乾燥した咳や痰による感染の可能性はあるのか?
    (乾燥状態になればウィルスは数時間で死滅する。)
    (14)
    現地で疑いがあると診断されたが日本で診てもらうことはできるのか?
    (移動中に症状が悪化する可能性もあり賢明な方法ではないと考える。)
    (15)
    発症の疑いが出た場合にはすぐ受診させるようにとのことであるが、医療機関のレベルの目安如何?
    (日本であれば、胸のレントゲンが撮れて血液検査ができるところである。)
    (16)
    感染地域からの郵便物は受け取らない方がよいということはないのか?
    (ペストは微生物が介在したが、SARSについては、郵便物による感染例があるとは承知しておらず、受け取り拒否は現実的ではないだろう。)

(了)

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