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テロ・誘拐情勢

2016年03月14日

1. 概況
(1)2007年以降,パキスタンでは,同国北西部を中心に,パキスタン・タリバーン運動(TTP)等のイスラム過激派勢力に対する軍事掃討作戦が進められてきました。特に2014年12月のハイバル・パフトゥンハー(KP)州ペシャワルにおける学校襲撃テロ事件後,同国では「テロ撲滅」の機運がこれまで以上に高まり,軍事作戦をはじめとする各種テロ対策が政府一丸となって進められました。その結果,2015年のパキスタン全土におけるテロ発生件数は625件(2014年は1206件)となり,2007年以降最大の下げ幅を記録する等,テロ発生件数は大きく減少しました(統計出典:「パキスタン平和研究所」)。
(2)しかし,2015年5月のシンド州カラチにおけるバス襲撃テロ事件,同年9月のペシャワルにおける空軍キャンプ襲撃テロ事件,2016年1月のKP州チャルサダにおける大学襲撃テロ事件等,最近もパキスタンでは大規模なテロ事件が発生しています。
  パキスタン政府による軍事掃討作戦等により打撃を受けたTTP等の武装勢力は,隣国アフガニスタンに拠点を移しつつある模様です。しかし,これらの武装勢力は,依然として,治安機関や教育機関・商業施設等のソフトターゲットに対して攻撃を行う能力を有するものとみられています。これら武装勢力は,軍事掃討作戦を実施しているパキスタン政府に対する報復を行うと主張しており,今後,都市部においてソフトターゲットを標的にしたテロ等を敢行するおそれもあることから,警戒が必要です。
(3)なお,パキスタンでは,バロチスタン州,KP州及び連邦直轄部族地域(FATA)等,武装勢力が潜伏しているとみられる地域を中心に,テロ事件が多発しています。現在も,パキスタン国内のテロ事件の8割がこれらの地域で発生しています。また,カラチでは,政党・民族対立に起因する暴力や報復事件も多発しています。
(4)パキスタンにおけるテロの多くは,TTP及びその関連組織が実行しており,軍・治安機関関係者,政党関係者,民間人等を主な標的としています。また,バロチスタン州やシンド州の独立を目指す組織や,シーア派等の宗教的少数派を攻撃する宗派主義者によるテロも多発しています。なお,現在のところ,パキスタン国内において,イスラム過激派組織ISIL(イラク・レバントのイスラム国)の活発な活動は確認されていませんが,2014年10月,TTP幹部数名がTTPから離脱し,ISILへの忠誠を表明する等,ISILの活動に呼応する動きも一部で認められており, ISILに触発された者等によるテロ等が懸念されます。パキスタンの治安情勢は依然として厳しく,テロ・誘拐の可能性を含め,安全には十分な注意を払う必要があります。
 
2. 各組織の活動状況または各地域の治安情勢
(1)パキスタン・タリバーン運動(TTP)
  パキスタン国内各地の武装勢力の緩やかな連合体である「パキスタン・タリバーン運動(TTP)」は,2007年の結成後,政府機関等に対する攻撃を繰り返し,FATAからKP州スワートにまで至る一大勢力を形成しました。しかし,パキスタン政府の軍事掃討作戦や米国の無人機攻撃により指導者が相次いで殺害され,また,新指導者選出をめぐる混乱や政府との対話の是非をめぐる路線対立等により,TTP内部は分裂傾向にあります。
  2013年以降,政府はTTPとの対話路線を取ることで治安回復を図る道を模索しましたが,2014年6月8日に発生したカラチ国際空港における襲撃事件を受け,対話路線からの転換を決定し,同月15日からFATA北ワジリスタン管区で,同年10月からFATAハイバル管区で軍事掃討作戦を開始しました。これらの作戦により,TTPは少なからぬ打撃を受けており,FATAにおける武装勢力の掃討に一定の効果が認められました。
  また,2014年10月には,TTP幹部数名がTTPから離脱し,ISILへの忠誠を表明する等,近年,TTPはISILの勢力拡大による影響も受けています。
  一方,TTPは,治安機関や教育機関・商業施設等のソフトターゲットに対する攻撃を行う能力を依然として有しているものとみられます。2014年12月のペシャワルにおける学校襲撃テロ事件は,TTPが,軍事掃討作戦を実施しているパキスタン政府に対する報復として実行したものとみられています。パキスタン国内におけるTTPの動向には,引き続き注意を要します。

(2)スンニ過激派及びカシミール過激派
  パンジャブ州南部を拠点とするスンニ過激派集団(いわゆる「パンジャーブ・タリバーン」)の一つであるラシュカレ・ジャングヴィ(LeJ)は,パキスタン各地において,聖者廟やシーア派等他宗派を標的としたテロを実行しています。しかし,マリク・イスハク代表等の主要幹部が治安当局に殺害されたことで組織は打撃を受け,攻撃能力が減退したとされています。
  一方,ラシュカレ・タイバ(LeT)やジェイシェ・ムハンマド(JeM)等のカシミール過激派については,主にインド等,パキスタン国外におけるテロ活動を行ってきましたが,今後,テロ対策におけるパキスタンと米国の連携や,パキスタンとインドとの関係改善の動きに反発して,パキスタン国内でのテロ活動を活発化させる可能性も否定できません。

(3)アル・カーイダ及び「インド亜大陸のアル・カーイダ(AQIS)」
  ウサマ・ビン・ラーディンをはじめ,米無人機攻撃等によって多数の幹部が殺害される等した結果,アル・カーイダの能力は衰えたとみられています。
  一方,ウサマ・ビン・ラーディンの後継者となったアイマン・ザワヒリ等最高幹部は依然として拘束されていません。こうした中,2014年9月,ザワヒリ最高指導者が「インド亜大陸のアル・カーイダ(AQIS)」の設立を発表しましたが,これは,中東地域におけるISILの勢力拡大及びパキスタン等におけるアル・カーイダの影響力減退に危機感を抱いたアル・カーイダによる組織再興への動きとみられています。同年9月,カラチ港に隣接するパキスタン海軍関連施設に対する襲撃事件が発生した際にも,AQISが犯行声明を発出しており,今後,アル・カーイダがAQISを通じて,パキスタンでの活動を活発化させる可能性は否定できません。

(4)バローチ民族主義諸派
  バロチスタン州においては,バローチ民族主義者による民族闘争が激化しており,政府・治安機関や,電気・ガスパイプライン等のインフラ施設,シーア派,外国人や他州からの移住者を狙ったテロ等が頻発しています。これらの事件の多くについて,バローチ解放軍(BLA)やバローチ共和軍(BRA)が犯行声明を発出しています。一方,2015年には, BLAやBRAのメンバーがパキスタン政府に投降する動きもみられました。

(5)ISIL
  2014年10月,TTP幹部数名がTTPから離脱し,ISILに対する忠誠を表明する等,ISILの活動に呼応する動きもみられていたところ,2015年1月,ISILがアフガニスタン,パキスタン及びその周辺の土地を含む地域に「ホラーサーン州」の設立を宣言しました。
  また,イラクやシリアにおけるISILの勢力伸長に伴い,パキスタンにおいても,ISILの影響を受けた者が存在します。パンジャブ州やシンド州カラチにおいても,ISILに触発された者が,ISILに参加するため,中東への渡航を企図する事例が確認されました。
  現在のところ,パキスタンにおけるISILの影響力は限定的ですが,今後,ISILの思想に共鳴する者がテロを敢行する可能性もあり,ISILの当地における影響については,今後も注視する必要があります。

3. 誘拐事件の発生状況
  パキスタン全土で誘拐事件が頻発しており,富裕層のパキスタン人のみならず,外国人も標的とされているため,注意が必要です。最近では,2011年8月のパンジャブ州ラホールにおける米国人誘拐事件(死亡),2012年1月のバロチスタン州クエッタにおける英国人誘拐事件(死亡),2013年3月のバロチスタン州におけるチェコ人誘拐事件(2015年3月解放),2014年5月のKP州デラ・イスマイル・カーン郡における中国人誘拐事件(2015年8月解放)が発生したほか,2013年5月にパンジャブ州ムルタンで首相経験者の子息がTTPにより誘拐される事件(2015年7月解放)等が発生しています。
  カラチでの誘拐は,ギャングやマフィアと呼ばれる犯罪者集団による身代金目的のものが主ですが,KP州,FATA及びバロチスタン州では,こうした犯罪者集団に加え,軍事掃討作戦によって拠点を追われたTTP等の武装勢力が,資金調達や政府当局に拘束されている仲間の釈放を求める手段として,誘拐を用いているケースが多く見受けられます。

4. 日本人・日本権益に対する脅威
  現在のところ,日本人や日本権益を直接の標的とする具体的な脅威はありませんが,テロに巻き込まれる可能性や誘拐のターゲットになる可能性は常に存在しています。
  また,パキスタン軍による軍事掃討作戦の開始に伴い,TTPが,航空会社,多国籍企業及び外国人投資家に対し,事業を停止し,即座にパキスタンから出国するよう警告を発していることを考慮すれば,テロの巻き添え等の偶発的な被害のみならず,直接の標的とされる可能性もあり,引き続き厳重な警戒が必要です。
  さらに,他の地域においても,近年,シリアやチュニジアにおける日本人が殺害されたテロ事件や,パリでの同時多発テロ事件等も発生しています。このように,世界の様々な地域でイスラム過激派組織によるテロがみられるほか,これらの主張に影響を受けた者による一匹狼(ローンウルフ)型等のテロが発生しており,日本人・日本権益が標的となり,テロを含む様々な事件の被害に遭うおそれもあります。
  このような情勢を十分に認識して,誘拐,脅迫,テロ等に遭わないよう,また,巻き込まれることがないよう,海外安全情報及び報道等により最新の治安・テロ情勢等の関連情報の入手に努め,日頃から危機管理意識を持つとともに,状況に応じて適切で十分な安全対策を講じるよう心がけてください。

(注記)
 「テロ」については国際的に確立された定義は存在していませんが,一般には,特定の主義主張に基づき,国家等にその受け入れを強要し,又は社会に恐怖等を与える目的で行われる人の殺傷行為等をいうものとされています。本情報は,このようないわゆる「テロ」に該当するか否かにかかわらず,外務省が,報道等の情報に基づき,海外に渡航・滞在される邦人の方々の安全確保のための参考資料として編集したものであり,本資料の掲載内容がそのまま外務省の政策的な立場や認識を反映するものではありません。